サイバー競馬敗戦記(2月)

2月21日(月)

府中の長い直線もあと200メートルを残すばかり。にもかかわらず、一向に伸びてくる気配のないレッドルゼルを見て「日記を書こう」と思った。ものごとのきっかけはいつだってこんなものなのだ。レッドルゼルは6着。また負けた。無言で競馬新聞をごみ箱に放り込む私をソファの妻が見ている。犬も。

この週末は散々だった。先週食べた牡蛎が当たったのかずっと寝込んでいた。ユーモアをはき違えたツイッターの連中が「馬券は当たらないくせに牡蛎には当たるんですね!」などと茶化してきそうだと思ったが、誰も何も言ってこなかった。誰も何も。犬も。

夜。上板橋の紳士たちに最近の当たらなさをぼやいたら「買い方が悪いのではないか」とのこと。1時間にわたって集中講義を受けた。買い方のコツがわかった。コツさえ押さえてしまえばこっちのものなのだ。コツを押さえられなかったことがこれまでの敗因。要はコツなのだ。

2月22日(火)

ひどい一日。株の話だ。

一昨年はミニクーパーぐらい負けた。去年はジョグぐらい勝った。本当はワゴンRぐらい勝っていたのだが、最終的にはジョグになった。でも競馬でジョグぐらい負けたので、結局は徒歩だった。

今年はビッグスクーターぐらい勝っている。だが今のままだとやっぱりジョグになる。それに、競馬で負ければ徒歩なのだ。

サウナの木目がポムポムプリンに見えた。応挙の犬にも。

2月23日(水)天皇誕生日

朝から掃除。床と風呂と玄関。

掃除をする自分はなんと立派な人間なのだろうと思う。後ろめたいことのない充実した人生を送っていると感じる。普段からこまめに掃除をしていたら、きっとこうはいかないのだ。充実した人生を送りたければ、掃除はなるべくしない方がいい。

桜の枝を買って帰宅。パチンコ屋に日の丸がはためいていた。

2月24日(木)

戦争が始まった。そして私の含み損生活も。

キエフに充溢しているであろう生の気配を想像する。死と隣り合わせの日常を送ることと人々の魂が輝くことは矛盾しない。

3.11直後の東京にも生の気配は満ちていた。余震、停電、放射能。不安の種はいくらでもあったが、それにもかかわらず道行く人々の顔はどこか晴れやかであった。

災害や事故、そしておそらくこの戦争も、時が経つほど悲惨な面が強調される。それは間違いのない事実なのだが、一方で存在するこのような人間のおかしみを私は伝えたい。

19円のもやしを2袋買う。フルスモークのクラウンが道の中央に路上駐車していた。

2月25日(金)

暖かい一日。キエフ陥落寸前との報。

ウクライナの動向にかかわらず馬は走る。東スポを買い、競馬面を抜き取り、男センを流し読みしてゴミ箱に放り込み、このようにして私の週末はいつも通りの幕を開ける。

明日の注目馬は小倉11Rのメイショウカクウン。前走は後方待機で大外を回る形だったが、最後はいい脚を使って伸びていた。外差しが決まる今の小倉なら3着はあるのではないか。穴で狙いたい。

ところでこのメイショウカクウン。父はサクラオールインという馬で、2009年に500万下を勝ってからは勝ち星に恵まれず、最後は門別を走っていたという異色の種牡馬である。

種牡馬になった経緯など詳しい事情はわからないが、こうした馬から生まれた仔がメインレースを走るのだから競馬というのは面白い。良血であっても1勝すらできずターフを去る馬も多いのだ。

1勝が遠いと言えば、日曜には板橋競馬倶楽部のガーディアンベルが出走する。5着→7着→7着と案外な成績が続いているが、そろそろ未勝利にめどをつけてほしいところである。

ととのいグラスの納期が近づいてきたので梱包資材をあれこれ発注。そのせいで表示される広告が段ボールとプチプチばかりになってしまった。

2月27日(日)

風が騒がしい一日。

昨夜高熱が出た。咳もあり、コロナの疑いが晴れるまで隔離されることに。幸い熱は下がったが、先週に続いてひどい週末になってしまった。

そんな状態なので今週の競馬は控えめに。アドマイヤハダルからの3連複を買っていた中山記念は、買い漏れで取りこぼした。本当にろくなことがない。

唯一良かったことと言えば、板橋競馬倶楽部のガーディアンベルが初勝利を挙げたこと。前走より前進してくれるとは思ったが、期待以上の結果である。

「このまま未勝利だったら地方行きか、あるいは…」と気を揉んでいただけに本当によかった。淘汰は競走馬の宿命とは言え、せめて縁がある馬ぐらいは幸せな馬生を送ってもらいたいと思う。

2月28日(月)

相変わらず熱が上がったり下がったり。咳や喉の痛みも現れ、いよいよコの字らしい雰囲気が出てきた。

昨夜から家庭内隔離が始まった。寝室からほとんど出ることなく、ドアの隙間から差し出される食事を食べていると、海外でよく見る快適な刑務所にいるような気がしてくる。こういう生活は嫌いではない。

ベッドを独り占めできるのもよい。ベッドとはこんなにたくさんの寝返りを打てるものだったのでしょうか! クイーンベッドに独りで寝ているしらいしさんの気持ちがわかった。

妻には苦労をかけるが、異国の神に「病める時も健やかなる時も」と誓ってしまった以上、こうなるのは仕方ない。結婚とはそういうものなのだ。リビングに出る時は申し訳なさそうな顔をしています。

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