見出し画像

8月22日のお話

恋愛感情というものは、相手と会っていると盛り上がるが、会えない期間が長くなると少しずつそれは冷却されていく気がする。

ミキは自分の心に手を当てて、自分の恋心をそう分析した。2ヶ月前、彼氏のセージが沖縄から東京まで会いに来てくれたとき、ミキは年甲斐もなく舞い上がっていた。

セージと東京で一緒に過ごした一週間。その間に、「結婚するなら、この人かな」と何度も考えていたのだ。結婚なんて、と思っていた自分がそう思えてしまうほど、彼は特別な人だと思ったいた。しかし。

その後、再び離れて暮らした2ヶ月。ミキは最近、1日の間に彼のことを想う時間がほとんどなくなっていることに気がついていた。

それは、盛り上がりすぎた東京での時間の直後、ミキの方から「少し、連絡を控えて欲しい。」と依頼したことが影響しているのも理解していた。ミキは、東京で独り過ごす時間と、二人の幸せすぎた時間とのギャップや隣に耐えられなかったのだ。少しの間、冷静になるためにという理由で彼に申し出たそれが、ずるずると続き、遠慮がちに2、3日に一度くれていたLINEも、今では週に一度くらいになっていた。

それまでのセージは、マメに毎日毎日連絡をくれる人だった。しかしそれを、「辛いの」と訴えてしまったミキ。「ミキちゃんを苦しめたいわけじゃないから。」と理解を示してくれたものの、明らかに、その頃から、お互いにどう接したら良いか分からなくなってしまっていた。

私が悪い。

ミキは、自分に「逃げ癖」があるのは認識していた。仕事ではそんなことはないが、恋愛においては少し楽しくない時間が続くと、ふっと投げ出したくなってしまう。恋愛を、仕事で疲れた自分の癒しな場所と考えていたから、そこでも話題が起こったり、それに心を乱されることは望んでいない。

だから、2ヶ月前も、仕事を投げ出して会いに行きたくなるような感情を芽生えさせるセージへの想いは自分にとって危険だったし否定したい感情だった。

その時は、間違いなく。

だから遠距離恋愛はうまくいかない。今になって振り返ると、自分がもっと彼との恋愛に向き合っていれば、逃げ出さずにお互いを求める感情に忠実に行動していたら、何かが違ったかもしれないと想う。少なくともセージは、会いたいからと言って会いに来てくれた。しかしミキはそういう行動ができなかったのだ。

私があの時に感じた、結婚するならこの人、という感情は本当に気の迷いだったのだろうか。具体的な行動に移せなかった自分を客観視してみるが、その答えはどうしてもわからなかった。

今年は、小学生の夏休みが少し早めの今日あたりから終わるらしい。あるようでなかった夏の繁忙期も、そうなれば発生する可能性も薄い。ということで、昨日、上司から夏休みの予定をとればと勧められたのに、ミキは「嬉しい。休みが取れたらセージに会いに行ける」とはならなかった。ならなかった、と自分で気付いた時から丸一日、彼女はこのことについて考え続けていた。 

やっぱり距離が離れてしまったからかな。

2020年8月22日。2ヶ月前の時のように、セージから、強引に連絡をくれることもないいま、いよいよ何かの区切りがやってきたようだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?