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しあわせの食の風景

「よしえ食堂ができるまで」ということで、毎週月曜日に、このnoteで私の人生を振り返っています。2020年も暮れですね。年末の習慣のようなもので、台所の冷蔵庫やガスコンロ、換気扇などを大掃除して、明日からはおせち作りに取りかかる予定です。体に染みついた季節感ってすごいなと思います。先週は、おせちのこと、おもちのことなどを振り返りましたが、その背景にある思いに触れてみたいと思います。

役割
年末は、おもちつきをして(といって機械が)、小豆を炊いて(といっても圧力鍋が)、あんこを作って、あんもちを作ります。作り立ての柔らかいあんもちは、搗きたての醍醐味です。その傍らで、ガスコンロを磨きながら、冷蔵庫の残りものをどうしようかと考える、そんな恒例の日々を送っています。そんな時は、父や母、祖母のことを思い出します。

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祖母は「よっちゃん、師走になったらお正月のことを考えて過ごしなさい。」毎年そう言いながら、乾しいたけを選んだり、近所の乾物屋さんをまわったりして、昆布やするめ、数の子や田作りを調達し、おせちに使うお肉やお魚、野菜の調達に余念がなく、それこそ走りまわっていました。まさに「御御馳走(おごちそう)」です。
父は、きれい好きで几帳面、ガラス磨きは趣味ではないかと思うくらい得意だったと思います。玄関周りを掃くことからからはじめて、脚立を準備して、バケツにはぬれぞうきん、乾いたぞうきん、歯ブラシに軍手、掃除機を抱えて、ガラス窓をピカピカに磨いていました。何しろ実家は、路面に面しかつて商家だったので、ガラス窓に囲まれています。ガラス磨きだけでなかなかの重労働だったはず。私たち子どもも駆り出されて、寒風の中、ガラスを磨いたものです。もし、今生きていたら、百均に連れて行って便利なお掃除グッズを一緒に探していたことでしょう。
母は、忙しい中でも、クリスマスケーキを焼いて、私の友人たちを招いてクリスマス会を催したりしてくれていました。たぶん、学期末の仕事に追われて大変だっただろうと思います。それでも、祖母が準備したおせちの材料を前に、せっせとおせちづくりに取り組んでいました。大晦日には、立派な屠蘇器が並び、四段のお重にはぎっしりと御御馳走が詰められて、「やっと完成した!」といって、腰を下ろし、紅白を見ていた記憶があります。


かつては、父が着物を着るのが大好きで、母も私たちも着物を来て、お正月を迎えていました。といっても、普段着の着物ですが、子どもながらにそれをとても楽しみにしていました。そのために祖母は着物を誂えてくれたり、「どれを着ようか?」と並べては選んでくれたり、子どものころから、お正月はわくわくするものでした。

お正月
家族がそろって、お正月を迎えてお雑煮とおせちをいただくころには、母は疲れがどっと出てしまい、そのあとよく寝込んでいました。年に一回の休暇ともいえます。今なら当時の母に、はなまるをあげたいくらいがんばっていたなぁと思い出します。いつのまにか、着物を着ることもなくなり、おせちも少し簡略化して、それでも父や母は、孫たちにはその風習や、文化を伝えたいと、お正月行事は家族みんなにとって大事なものとして続いていました。それぞれの役割を担いながら、新しいを迎え、その年を健やかにすごせるようにと、それがお正月だったように思います。

しあわせの食の風景
今年はコロナ禍にあって、帰省もできず、祖父母や両親に会えない方も多いことと思います。さみしいし、辛いとは思いますが、かえってその有難みに気づく機会にもなるのではないでしょうか。家族や大切な人と過ごす時間の貴重さは、こういう時にこそ思い出されます。みんなで囲む食卓の風景にはいろいろなものを投影しているように思います。もちろん、子どもたちにはお年玉をもらえる新年の食卓は特別だと思いますが。


子どもが小学校4年のころの詠んだ俳句です。
「くろぐろと 大黒柱 おせちくう」。当時とても光栄な賞をいただきました。実家の大黒柱は大きくて黒光りしていましたし、息子から見た、大黒柱の祖父や父親、並ぶ料理も煮〆たものなど、カラフルなものではなく、黒っぽいものが多いのも確かです。黒々とした風景の中に、父や母が伝えたかったお正月の思いは、しっかりと息子たちにも伝わったのではないかと思います。

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母が名づけ生涯心血を注いだ「伝承料理」。それは、郷土料理の範疇を超えて、次世代に伝えていきたい料理をテーマにしていました。年末年始の、食の風景にはそのエッセンスがたくさん含まれています。


私は「しあわせの食の風景を次世代に伝えていきたい」と、いつも思っています。それはもちろん、高価だったり、めずらしかったり、季節が限られていたり、特別な食事かもしれません。一方で、質素でも、ありふれたものでも、いつもの見なれたものでも、たとえおにぎりとお味噌汁だけでも、しあわせを感じることができる食卓はあると思います。


しあわせな食の風景は、私たちを家族との思い出や、ふるさとや大切な人とのひとときに連れていってくれるかもしれません。

しあわせの伝承

明日からおせち作りです。ぼちぼちと親族や友人、戦力は甥や姪です。一緒にたくさん作ってわけることにしています。三が日、きっとわが家の子どもたちは「またぁ~」と言いながらも、箸をつけると思います。それで、いいと思います。こういう小さな毎年の積み重ねが、その家の歴史になり、文化になり、小さなものの集まりが、地域の食文化を地味に形作っていくと思っています。
母が伝えたかった「伝承料理」は、しあわせの伝承なのだと、今さらながらにかみしめています。

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みなさま、2020年もありがとうございました。
来たる2021年が、みなさまにとって、より幸多き一年になりますように、心から祈念いたしております。おせちでも囲みながら「しあわせの食の風景」そんなことを思い出していただけましたら、うれしいかぎりです。
来年もよろしくおつきあいくださいませ。

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