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LSD finally report (2017年 4月 ー 7月)






My mummy's dead
I can't explain
So much pain
I could never show it

( 僕のママは死んだ
僕には 説明できない
こんなに大きな苦しみを
ひとに話すことができなかった )
                     
              ー My Mummy's Dead (1970)
                                          / John Lennon



         *                      *                       *


 

   2017年  4月  (高二の頃の日記  四月の頁)



おれは16歳で

今、横で女が寝ている

吉祥寺のレズビアンバーで千ちゃんの知り合いを介して紹介された

それで家に呼んで、一緒に風呂まで入ったのに何もしないで眠ってしまった
でもお金はくれた

さっきまでおれを育てたいとか言ってハイになって家の鍵を渡してきたけど本当だろうか
明日この女の家に住ませてくれないか頼んでみようと思う

隣の部屋でパパが泣いてる
というか叫んでる
ほんとうにクソだよ

今日でママが自殺して一年が経つ

きのう久しぶりに高校に行ったら保健室の鈴木先生に無理やり生徒相談室に連れて行かれた
信じていたから悲しかった
セラピストの男はおれの事を自閉症だとかPTSDがなんとかとか言ってくるからぶん殴ってやった
そしたら周りにいた頭の悪い同級生たちにスマホを向けられた、笑われながら
あいつらは全員エイズにかかって死ねばいいと思う
でもセラピストは若くて繊細な目をしていた
おれは、バイセクシュアルなのかもしれない



  2017年  7月  (高二の頃の日記  七月の頁)



長らく書いてなかったけど、最近色々あった

いとわ、という千ちゃんに紹介してもらった女のひとにあのあと本当にあなたの家に住ませてくれないかと頼んでみた
口では断られたけど、合鍵をくれた。6月はほとんど毎日いとわの家にいた

夜になると毎日いろんな人がきて、一気にたくさんの人と知り合いになった

すごい毎日だ

一昨日の夜から千ちゃんがきてて、いとわと3人でいたけど、昨日の夜から2人とも仕事に行って朝になったけどまだ帰ってこない
夜中眠れなくて、外にも出れなくて動けなくて、ずっと不安で、今これを書きはじめた

頭が割れるように痛くて吐きそうなのに眠れない
痛み止めを飲んで、大量の水を飲んで何回もトイレに行って、風呂に入って、いとわのイソップの香水を蒸しタオルに吹きかけて身体を拭いて、テニスコーツを聞いて、煙草を何本も吸ったけど、何も変わらない

なんだか、どうしていいかわからないくらいさみしい

昨日、いとわに教えてもらってはじめてLSDというのをやった

すごかった  

ほんとうに、すごかった

しばらくしてから不安がぜんぶかっ消えて、体が熱くなって、皮膚が焦げて湯気が出ながら小さくなっていくみたいな気を起こして、目の前のいとわと千ちゃんと、自分の違いがわからなくなってった
それからおれははっきりずっと意識があったつもりで、ずっと3人で映画観ながら煙草吸ってたと思ってたけど、あとから千ちゃんにあんたおしっこ漏らしてたからねと言われて、よくわからなくなった
映画を見てたのはそうだけど、その途中でおれはずっとリストカットし始めて大変だったと言ってた
千ちゃんもいとわも止めたりはしなかったらしいけれど、おれはずっと1人で喋っていたと言ってた。なんて話してたかは教えてくれなかった

机の上に昨日のLSDがのこってる

今ひとりでやってみる

やっぱり、すごく落ち着いてきて嬉しい

昨日とは違って1人だからか、やけに意識が冴えてなんか頭の中で言葉が止まらない。とりあえず書き続けてみようと思う

そういえば、パパは元気だろうか?

こないだいとわに4月のページのところを勝手に読まれてあんたのパパに会いたいと言われた。あんたはパパを大事にしなさいね、と言ってた。そのあと、あんたには書く才能があるし、書くことは精神治療にもなるから何でもいいから何か書いたほうがいいとも言われた

恥ずかしかったけど、褒められたことがすごく嬉しくて、嬉しくて、そのまま泣いてしまった。泣いてしまったということに、それからすごく安心した
なんでかわからなかった

ギターもピアノも絵描くのも続かないけれど、とりあえずこの日記を書き続けてみようかと思う。いつか、長い物語を書いてみたい。今の状況が周りと比べてかなり特異なことは自分でもわかってるから、とにかく周りの人間をよく観察しておこうと思う。今は

いとわはレズビアンだから、おれをそういう目で見なくて、そのことが、ほんとうに安心する

酔ってると舐めてくれたり触ってくれたりするけど、いとわはそれを趣味と言う
でも嘘だと思う
だっていつもおれよりいとわのが何倍もきもちよさそうだから
千ちゃんとセックスしてるときよりおれとしてる方が全然すごい顔つきになるから、千ちゃんがこっそり嫉妬してるのをおれは知ってる
同性愛の人たちは嫉妬しないの、とか言ってたけどあれもきっと嘘だ
あたしも混ぜてとか酔ったふりして近寄ってくるけど、おれの体にしか触らなくてへんなキスをしてくる
いとわを嫉妬させたいからにちがいない

でも、そのうちふたりとも抑えきれなくなって、結局いつも2人きりの世界に閉じこもっていく

あのときの千ちゃんといとわの美しさったら半端じゃない

ふたりが舌を吸いあうと、重なった股とか頬とか首筋とかが濡れながらほんのり赤くなっていく

昨日それを見ながら、これを書きたいと思った

あの時の気持ちは、
昔おれが小さい頃、家族でご飯を食べてて、ばあばから電話がかかってきて、ママが出て、それから食卓そっちのけで長話するのをソファの横で聞いていた時の気持ちと、そっくり
意識が俺に向いていないのに、ママの体がそばにいて、ママとばあばの2人の親密さの関係性に、ひとりぼっちで触れていること

あの時の気持ちになるから、いとわと千ちゃんと3人でいるのはほんとうに安心する

いとわの腰まであるかみのけは天然パーマで、千ちゃんはカラックスの映画に出てくる女の人みたいにすごく短い髪で、青い。それでふたりとも手の爪が割れてる。毎日のように起こるバーでの乱痴気騒ぎで怪我してもう生えてこなくなったとか言ってた。千ちゃんは異様に足が骨張って細長くて、太ももとすねが同じ太さ、乳首が薄い桃色でうっとりするくらい上品な形をしている。いとわは腹のところがのっぺり長くて、生まれたてみたいに白くてこまやかで、腕に青白い産毛が生えてて、さわるとやわらかい。そういうふたりのからだをみて、おれはいつもどきどきして、ふしぎな感情になる

今思いついたけど、ふたりの体に向けて、服も作ってみたい。ふたりに着てもらって、おれがその真ん中にいて、3人で吉祥寺じゅうを歩いてみたい



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