日本は衰退するのか
(20141114記)
日頃、新聞に掲載された時評が繰り返し読まれることはありません。
どれほどきちんと書かれたものであっても、テレビのコメントのように、読み捨てられ忘れ去られるのが普通です。だからこそ、私は五百旗頭真さんの言葉をまとまった形で読んでいただく機会を作りたいと思っていました。
五百旗頭さんが日本政治・外交を見る視点は一貫しています。私が本書の内容を説明したら「どうせ彼のことだから日米同盟+日中協商って言うんでしょ」と仰った方がいる。確かにそうです。しかし、常に一線に立って、変わりゆく世界と対峙して、それを倦まず弛まず語り続けることの困難を、私たちは忘れがちです。
たとえば日米、日中、日韓、ロシアだって東南アジアだって、どれを取っても戦後一様に良かったり悪かったりした関係はありません。その都度、飲み込んだり主張したり、ある種の折り合いをつけながら、この国は戦後七〇年という歳月を積み上げてきたわけです。
折々、日本が発揮してきた強さとは、経済的繁栄に裏打ちされた寛容でした。先の見えない構造的不況、人口バランスの歪みによる社会システムの破綻、追い討ちをかける大規模な自然災害。自信を失った日本は、いま狭隘なナショナリズムに拠り所を求め始めている気がします。
本書の中で五百旗頭さんは言います。
「盗っ人猛々しい周辺国の振舞に対して、本書は一方で、目覚めて安全保障に向き合えと言う。と同時に、それ以上に『敵と似た者となるな』と説くであろう」
その通り、厳しい対処こそ静かに行うのが良いのです。声高に相手をあげつらっても醜いばかりでいいことは一つもありません。相手と同じ土俵に乗ってはなりません。
焦ることはないのです。「この地域にあって最も成熟した社会を持ち、異文化を持つ多くの国を支援する実績を持ち、米国と同盟関係を維持する日本にしか、アジア太平洋のよき世話役は務まらない」のですから。怖いのは後ろ向きのメンタルに根ざした衰退宿命論です。
すでに誤植も発見していますが(苦笑)、とにかく一生懸命作りました。一人でも多くの方に読んでほしい。今はただそれだけを願っています。五百旗頭真著『日本は衰退するのか』(千倉書房)は一一月下旬の発売です。