さよなら20世紀と日本研究会

(2018/03/03記)

 ただいまご紹介に与りました千倉書房の神谷でございます。

 今日、この場にお誘いいただいたことに感謝申し上げると共に、「20世紀と日本」研究会を立ち上げ、二〇年の長きにわたって引っ張ってこられた伊藤之雄先生、川田稔先生、小林道彦先生、中西寛先生、井口治夫先生をはじめとする新旧幹事団、歴代の事務局、そして報告者・討論者として研究会をもり立ててこられた皆様に敬意を込めて、「お疲れさまでした」と申し上げたいと思います。

 奈良岡聰智先生から中締めの挨拶をするようお話しをいただいたときは、なぜ私のような若造にそんな役目が回ってくるのか、不思議に思いました。しかし確認してみますと、私が初めてこの研究会に参加させていただいたのは二〇〇五年の秋だそうです。

 バブル経済も、ソ連崩壊も、九・一一も鮮明に覚えている私にとって、二〇〇〇年代など、つい最近という感覚ですが、何と十三年前。参加当初は三十代半ばという気鋭の編集者であった私もいつの間にやら五十目前を迎え、じつに多くの水が橋の下を流れたのだなぁ、と感慨を深くしております。

 もうひとつ、ご指名の背景には、「おまえは、この研究会に関係する書籍をいろいろ出したから少し振り返ってみよ」という意図もおありかと思います。

 皆様ご承知の通り、二〇年の歴史の中で「二〇世紀と日本」研究会はこれまで五冊の成果報告書を刊行しております。

 山川出版社の『環太平洋の国際秩序の模索と日本』(一九九九年)、風媒社の『二〇世紀日米関係と東アジア』(二〇〇二年)、吉川弘文館の『二〇世紀日本の天皇と君主制』(二〇〇四年)、ミネルヴァ書房の『二〇世紀日本と東アジアの形成』(二〇〇七年)の四冊。

 そして上廣倫理財団の助成を仰ぐようになった二〇一〇年には、私も『歴史の桎梏を越えて』(千倉書房)をお手伝いさせていただきました。

 こちらに収められた、いずれ劣らぬ論文のなかでも、奈良岡先生ご執筆の第三章と、井上正也先生ご執筆の第一〇章が、後にサントリー学芸賞を受賞することになる、両先生の単著の一部を構成していることは、私の密かな誇りであります。

 また本書が二〇一一年に第二七回大平正芳記念賞特別賞を受賞したことは、この研究会にとっても意義深い成果と言えるのではないでしょうか。ちなみに、この時の副賞五〇万円は、寄稿者の皆様のご厚意で日本赤十字社を通じ、東日本大震災の義援金とさせていただいております。

 この後、来る三月一二日には、京都大学学術出版会より本書に続く六冊目、そしてその後には再び、千倉書房より七冊目となる最後の成果報告書が刊行されることになっておりますので、ぜひご期待いただきたいと思います。

 他にも私がお手伝いの機会をいただいた書籍は多岐にわたります。

 伊藤先生の単著『京都の近代と天皇』、伊藤先生が編者となり、小林先生、奈良岡先生、西山由理花さんにもご寄稿いただいた『原敬と政党政治の確立』、小林先生の単著『大正政変』、奈良岡先生の単著『八月の砲声を聞いた日本人』。

 もうすこし視野を広げますと、二〇一四年に刊行した室山義正先生の『近代日本経済の形成』は、二〇一三年に奈良で行われた夏合宿でのご報告がきっかけですし、二〇一六年に刊行した中谷直司先生の『強いアメリカと弱いアメリカの狭間で』は、本研究会でのご縁が七年越しの実を結んだ労作です。

 数え上げると切りがありません。今回は、たまたま私のお手伝いした本ばかりをご紹介しておりますが、この研究会でのご報告、討論を経て、ミネルヴァ書房、有斐閣、中央公論新社、講談社、東京大学出版会、吉川弘文館、昭和堂等々から世に送られた書物は、この何倍にものぼると思われます。

 こうした諸々を思い返すと、本日を以て「二〇世紀と日本」研究会が解散してしまうことには、やはり心残りもあります。

 しかしながら、この研究会を通じて世に現れた多くの優れた書物が、まさに証立てているように、学統、すなわち学問の歩み、研究の流れというものは片時も一つ所に止まることはない、というのも厳然たる事実であります。

 「二〇世紀と日本」研究会という高い峰の頂で磨かれた滴は、山肌を下るうち岩に染み入り、一度は姿を隠すかも知れません。

 しかし、それはやがて伏流水となって麓一円を潤し、学問の沃野に豊かな実りをもたらすことでしょう。そしてまた、ある時は鮮烈な清水となって噴き出し、再び多くの人々の集うところとなるはずです。

 いつの日にか、ここにご参集のどなたかが新たなテーマを掲げて研究会を立ち上げ、「おい神谷、ちょっと覗きに来い」とお声がけくださるのを愉しみにお待ちしたいと思います。

 それまでしばしのお別れです。最後に、ご参集の皆様のご健康と、ご研究のますますのご発展を祈念し、感謝のご挨拶とさせていただきます。

 ありがとうございました。

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