見出し画像

自分で出版社をはじめるなら

(2020/12/17記)

 昔、出版社をやるなら自分の誕生月を名前にしたいと思い、その流れでなんとなく各月の名を冠した出版社を探してみたことがある。

 一月と二月は、いまのところ関係する業種に用いられている気配はない。書房でも書館でも書院でもヒットがない。

 雅名の「睦月書房」にすると古書店がヒットするが詳細情報はなく廃業した模様。同じく如月を探すと東京都練馬区の古書店「きさらぎ文庫」がヒットする。

 一九六一年創業の「三月書房」(東京都千代田区)は私も大好きな小型愛蔵本で知られ、懇意にしている渡邉徳子さんが先代から引き継いで、ひとりで経営から編集、営業までこなす(http://www5f.biglobe.ne.jp/~sangatushobo/)。

 ネット上では同名の京都の古書店のほうが有名だったが、そちらは惜しくも二〇二〇年十二月末をもって廃業となった。福岡にも同じ名前の古書店があるが、こちらは同じ漢字を「やよいしょぼう」と読ませるそうだ。

 吉野せい『洟をたらした神』の版元として知られる「彌生書房」(東京都新宿区)は一九五六年創業。二〇〇八年に突如営業中止の情報が流れ、まもなくwebサイトも閉鎖されたため、ずっと倒産したのと思っていたが、二〇一七年頃までamazonで在庫の販売が継続されていたことを知った。

 陽気の良いころなのに、意外にも四月が空いている。卯月も同じ。言うまでもなく卯月の「卯」は卯の花を指すが、十二支ではうさぎということになる。

 かつて東京都千代田区に「兎月書房」という出版社があった。貸本屋から出発して出版にも乗り出し、ジョージ秋山を発掘したり、水木しげるに『墓場鬼太郎』を描かせながら原稿料を払えず絶縁したなどのエピソードが割と有名だが、一九六二年に倒産している。

 一九四六年に井上光晴の支援を受け竹森久次が創業した「五月書房」(東京都港区)は、その出自もあってもともと社会思想系などに強い版元だった。

 二〇一七年に破産するも、書籍コードや隣接著作権などを引き継いだ「五月書房新社」(東京都世田谷区)に衣替えした(https://www.gssinc.jp/)。編集委員制を導入して、現在もかなりのリベラル系著名人がかかわっている。

 皐月を社名に使った版元はないようだが、早月だと二〇〇五年に創業した「早月堂書房」(東京都豊島区)が見つかった。その後、早月堂と商号を改め、出版専業ではなくwebデザインや編集プロダクションのような業務にも手を伸ばしたらしいが詳細は不明で、廃業したものとおぼしい。

 六月と言えば「六月書房」(東京都新宿区)。一九七九年に創業され、知る人ぞ知る「霊園ガイド」の版元である(http://www.butuji.co.jp/index.html)。最近はweb版も運営しているとは知らなかった……。

 水無月もかなり良さそうだが版元としては使われていないようだ。現在、神保町には近現代史の資料に強い古書店「みなづき書房」があって、私も折々お世話になっている。

 秦川堂書店で修行したご主人が東中野で独立するもネット専業になっていたところ、南海堂書店の友人に勧められて神保町に出戻ったというなかなか波瀾万丈の店である。

 ……と書いて、念のため調べたら文京区に居を移して再びネット専業になっていた(http://www.ne.jp/asahi/minazuki/a/)。ずいぶんご無沙汰していたからなぁ……。

 「七月社」(東京都調布市)は二〇一七年創業で、民俗学やメディア研究などを手がける一人出版社である(https://www.7gatsusha.com/)。そのほかのジャンルでも、井上靖の未発表初期短編集を編むなど、篤実ながら鋭い企画を連発している。

 一方、「文月書房」と言えばこちらも知る人ぞ知る東京都品川区の古本屋だったが、改めて確認したところ知らぬ間にネット専業になっていた。Twitterなどでアクティブに発信を続けているので、ご関心の向きは是非。

 「八月書館」(東京都文京区)は一九八三年創業。公教育やゴミ処分、原発といったリベラル系の書籍を多く刊行している(http://hachigatsusyokan.co.jp/)。

 葉月という言葉も美しいので版元があるのではないかと思ったが、「葉月書房」という個人のブログがあるのみ。

 九月で探すと、「九月書房京都支店」(京都市右京区)という名前だけが挙がって本店は所在不明(笑)。国会図書館などに残る書誌データに拠れば出版活動の痕跡はあるようだが実態は朝鮮総連の傘下団体らしい(http://www.chongryon.com/j/cr/about/4-12.html)。現存は確認できなかった。

 長月は空いているので九月生まれの版元希望者はチャレンジして欲しい(笑)。

 「十月書房」(東京都)は戦後まもなく江口渙や壺井繁治らの著作を刊行していた左翼系の版元。やはり十月革命が由来なんだろうなぁ。ただ、活動時期が一九四六~五〇年頃と一九七八~八三年に集中しており、両者が同一か否かは調べがつかなかった。現存も確認できない。

 神無月は格好は良いものの字面が重いかなぁ、などと思っていたら名古屋市千種区に「神無月書店」という古書店があった。名物店長の古田一晴さんでお馴染み、ちくさ正文館のすぐご近所。

 さすがに版元・書店名に十一月はない。しかし霜月だと京都市北区の古書店「霜月文庫」(http://shimotsuki-bunko.jp/)のほか、ファンタジー系の書評をアップしている個人ブログ「霜月書房」、二〇一一年から稼働しているTwitterアカウント「霜月書房」、登録者数一五三〇人のYoutubeチャンネル「霜月書房」などがヒットする。どうやらブログとTwitterとYoutubeの主は同一人物と踏んでいるのだが、それを調べるほど暇ではない(笑)。

 「十二月書店」(東京都新宿区)は版元ではなく古書店。ギャラリースペースの貸し出しなどもしていたようだが、すでに廃業して久しい。

 そんな名前の版元はないだろうと、最初からほぼ確信を持っていた師走はやはりなかった(笑)。あまりに季節感が強い上、切迫感があり過ぎて版元の名前には向いていない。

 ちなみに私の誕生月は十月で、十月書房には多少の憧れもあるのだが左翼系版元の後継と思われても困るので、別のアプローチで考えようというのが今のところの結論である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?