かっこいい人たちが真面目なテーマに向き合うというかっこよさ!「なつぞら」



1961年からはじまって2019年で100作めを数えるご長寿シリーズ・朝ドラことNHKの連続テレビ小説。

100作めの「なつぞら」は広瀬すずをヒロインに迎え、戦災孤児だった少女が日本のアニメーションの黎明期にアニメーターとして活躍していく姿を描く。

■出演俳優は美形だらけ

はじまって1カ月めの4月は、東京大空襲で父母を亡くしたヒロインなつが北海道は十勝の牧場に引き取られ、牛の乳搾りをしたり馬に乗ったり干し草の上で寝そべったりと牧歌的な情景が描かれた。

2カ月めの5月以降は東京新宿でアニメーター修業がはじまっていく。

オープニングはアニメーション(曲はスピッツ)。日本のアニメーションをリスペクトした要素が描かれる。北海道の景色は清々しく、見どころは盛りだくさん。

そのひとつに出演俳優が美形だらけというのも特筆すべき点として挙げられる。5月9日(金)の「おはよう日本 関東版」の高瀬耕造アナウンサーも「それにしてもかっこいい人が多いドラマです」と語っていた。

■大量投入された二枚目にコメディリリーフのバランス

朝ドラでは、ヒロインの相手役や深く関わる人物にかっこいい俳優がキャスティングされ、人気が出るケースは過去にもあった。

たとえば「ゲゲゲの女房」(2010 年)の向井理、「あさが来た」(2015年)の玉木宏にディーン・フジオカなど。「まんぷく」(2019年)では、ヒロインら三姉妹の夫に長谷川博己、要潤、大谷亮平がキャスティングされ、女性視聴者を沸かせた。

「なつぞら」では、なつの北海道のおじいさん・泰樹に草刈正雄。育ての父・剛男に藤木直人、義理の兄・照男に清原翔、幼馴染で仲良しの天陽に吉沢亮、その兄・陽平に犬飼貴丈、高校の同級生・雪次郎に山田裕貴、生き別れの兄・咲太郎に岡田将生、空襲のときの命の恩人・信哉に工藤阿須加。アニメスタジオの師匠・仲に井浦新、同僚・坂場に中川大志。


少女漫画のキャラクターのようなシュッとした俳優、大集合だ。

過去の例からもかっこいい俳優を朝から楽しむことは朝ドラの楽しみのひとつとはいえ、家族から友人知人に至るまで「なつぞら」ほど二枚目だらけというのも珍しい。

だいぶおなかいっぱいで、軽妙なコメディリリーフがほしいところでは、北海道編ならTEAM NACSの安田顕(菓子屋・雪月の主人役)と音尾琢真(牧場の従業員役)がユーモアや生活感を振りまき、アニメーター編になると、麒麟の川島明(優秀なアニメーター役)が参加する。

■かっこいいの定義は人それぞれである

と、ここまで書いたところで、何をもってかっこいいというかは人それぞれであるという根本的なところに立ち返りたい。

例えば、安田顕は本来二枚目顔だと思う。だが彼は端正な顔を売りにしないで、性格俳優的なところで勝負しているのが魅力である。同じく戸次重幸(天陽の父役)もシュッとしているが「残念キャラ」で売っている。

このふたりを「なつぞら」の「かっこいい俳優」にカテゴライズしていいのかいけないのかは悩ましいところだ。

では音尾琢真はどうなのか。

ドラマでは、なかなか結婚できない三枚目的な役割を担っているが、白石和彌監督作品などで演じる刑事やチンピラみたいな役は、「モテ」という概念とは違った意味の渋みのあるかっこよさがある。

結局、顔で判断するべきではないという話になってしまうが、「かっこいい人がいっぱい」という夢の世界が古今東西、エンターテインメントのひとつの魅力でもあって、かっこよさに言及できなくなったら世界はつまらないものになるということも忘れてはいけない。

■要するにこの挑戦は果敢である


そういう意味では、「なつぞら」は夢いっぱいで楽しいドラマ。そのうえで、戦後の日本、血のつながっていない家族、開拓精神、農協と農家、アニメーションという可能性、日常生活と芸術の関係性、地元か東京か、などなど真面目なテーマも盛りだくさん。

「かっこいい人がいっぱい」だけで片付けられない、かっこいい人たちが真面目なテーマに向き合っている、見応えのあるドラマである。

「かっこいい人」をたくさん起用すると「かっこよさ」に頼っていささか中身が軽くなるんじゃないかという偏見に対する挑戦を、朝ドラ100作め「なつぞら」は果敢に行っているのである。かっこいい。

dmenuTV2019年5月10日公開

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