7つのポイントで振り返る!2018年のテレビドラマとその現象

2018年発表されたドラマに関して、私が先日、某テレビ誌でベスト3として挙げた作品は、単発ものの「ワンダーウォール」(NHK)、連ドラ「義母と娘のブルース」(TBS系)、配信もの「アストラル・アブノーマル鈴木さん」(YouTube)である。

地上波ではテレビドラマの枠が減っているという声を聞くが、その分、衛星放送や配信などでドラマが誕生していたり、連ドラではない単発ドラマに秀作があったりして、3作に絞るのはかなり苦しかった。

ここでは、2018年のドラマの話題をざっくり7つ振り返ってみよう。

■オリジナルドラマ問題 「アンナチュラル」「大恋愛~僕を忘れる君と」の挑戦

昨今、小説や漫画など原作ありきのドラマが好まれると言われる。そんななかで、2018年1月、漫画原作「逃げ恥」ですっかり人気脚本家になった野木亜紀子のオリジナル「アンナチュラル」(TBS系)と「カルテット」などでカリスマ的な人気を誇る坂元裕二のオリジナル「anone」(日本テレビ系)が放送された。

視聴率的には前者は回を増すごとに盛り上がり、後者は芳しくなく、坂元は連ドラをしばらく書かないと発言しドラマファンを心配させることに。が、年の後半、舞台をやったり、ドキュメンタリーに出演したり、本を出したり、ファンを安心させた。

「アンナチュラル」はテッパンの一話完結ミステリー要素をベースに手を加えたヒューマンドラマで、大衆向けに間口が広かった。

一方、「anone」はニセモノをテーマに疑似家族が偽札を作るという興味深いモチーフを使った練ったストーリーが、練り過ぎて純文学のようになって、見る人を選んでしまった印象だ。


野木はその後、10月期に、日本テレビでオリジナル「獣になれない私たち」を発表。今度は、一話完結でもミステリーでもなく、仕事にも恋にもはっきりした意志表示のできないまま、ふわふわと漂うように生きている者たちをみつめたドラマ。

現代を映し出していたものの、冴えない日常が身につまされるという声もあり、これまた視聴率的には芳しくない結果に。オリジナルドラマの難しさを感じさせた。

一方で大石静のオリジナル「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系)は難病ラブストーリーというテッパン要素を用いて、一話完結ものではない、続きが気になる展開で好評を博した。

オリジナルにもまだまだ勝ち目はある。ただ、既視感をうまく利用するなど、わかりやすくする工夫などが必要であると感じさせた流れである。

■登場人物の多様化 「おっさんずラブ」の成功

「LGBT」「ポリコレ」というワードが一般化され、ドラマにもその波が。

「女子的生活」(NHK)、「隣の家族は青く見える」(フジテレビ系)、「弟の夫」(NHK)、「半分、青い。」(NHK)、「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)、「透明なゆりかご」(NHK)など、LGBT、身体的ハンディキャップ、発達障害をもった人物などが主人公のドラマが増えた。あくまで生きとし生けるものみんな同じという観点に立った描き方ではあるが、現実世界で偏見もある事実も描くとなると、どう表現に配慮するか、作り手が悩む声も聞こえ、それが今後の課題であろう。

中でも、「おっさんずラブ」が男同士の社内恋愛をコミカルに描いて大人気に。関連グッズが売れて、19年には映画化もされる。人を愛することがときに苦しく、ときに滑稽に映ることもあり、でも尊いということに主軸を置き、男女の性差など関係なしに、恋する気持ちを徹底してみつめることで誰もが楽しめるものになった。

■単発ドラマは問題作多し 「ワンダーウォール」の尊さ

単発ドラマは、連ドラよりもじっくり観て、考えさせられるものが多い。「夕凪の街 桜の国」(NHK)、「どこにもない国」(NHK)、「未解決事件File.06 赤報隊事件」(NHK)、「乱反射」(メ~テレ)、「Aではない君と」(テレビ東京系)、「フェイクニュース」(NHK)など、戦争や実際にあった事件、話題になっている事柄をテーマにして、シンプルに答えのでない問題提議のあるドラマが制作された。

とりわけ、NHKの朝ドラ「カーネーション」で映画ファンも朝ドラファンに取り込んだ脚本家・渡辺あやのオリジナルドラマ「ワンダーウォール」(NHK)は、京都の歴史ある学生寮の取り壊しにまつわる学生たちの青春群像劇。1時間弱の短編ながら、瑞々しく、ほろ苦さのある快作だった。


■ファミリー路線へ 「今日から俺は!!」「義母と娘のブルース」「半分、青い。」は世代を超えて楽しめる

暮れは「今日から俺は!!」(日本テレビ系)が盛り上がった。80年代を舞台にした人気漫画は、その時代をリアルに過ごした大人にも、今回はじめて触れる子どもにも人気で視聴率も上々。テレビドラマの主要視聴者がOVER 4、50歳代と上がっているため、若い世代を取り込みたいという狙いが成功したといえるだろう。


「義母と娘のブルース」もファミリーで観られるドラマに。タイトルどおり母娘の話で、どちらの世代にも共感する作りになっていた。脚本家の森下佳子は四コママンガの原作を巧みに連続ものに組み替えて、義母と娘の涙あり笑いありの長い年月をアットホームなストーリーにした。感動ポイントの作り方がものすごくうまく、ハマる人が続出した。

NHKの朝ドラ「半分、青い。」もバブル時代から現代を描き、バブル世代から、若い世代までをトリコに。

ちょうど、80年代・バブル世代の子どもたち世代が二十代前後になっている時期、親子で観られるドラマはまだまだ増えそうだ。

■ドキュメンタリー調が面白い 「バイプレイヤーズ」の衝撃

「このマンガがすごい!」(テレビ東京系)はなかなか実験作だった。

蒼井優が聞き手になって、毎回ゲスト俳優を招き、その人が好きなマンガを実写化するためにどうアプローチするか話をしたうえで、実際に実写化してみる。トーク番組の面白さと、様々な技術を駆使してマンガを実写化する面白さと、それらの作業を通して、なかなか見ることのできない俳優たちの人間的魅力が顕わになっていく面白さと、何層にもなったユニークな企画だった。

蒼井優も俳優なので、ゲストによって表情や口調、間合いが変わっていくところも、手練の聞き手のトーク番組とは違う、芝居のエチュードのような刺激があった。

作り物の裏側(からくり)が視聴者にもだいぶ知られ、こう見えて、実はこう、というようなメタフィクションが好まれるようになった近年、こういったドキュメンタリーふうの作品も増えている。

「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」(テレビ東京系)は俳優をその名とパブリック・イメージのまま創作ドラマのなかで動いてもらう企画で、非常に受けた第一弾に続くセカンドシーズンとして注目を浴びた。

が、撮影中に主演のひとり大杉漣が亡くなるという衝撃的なことがあり、それでも追加撮影や編集などで工夫しながら最終回までやりきった。実際の出来事と重なってえも言われぬエンディング。忘れられないドラマになった。

「バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」

■配信ドラマは自由な場か 「サトリの恋」の実験

スポンサーの意向に従わなくていい分、自由度が高いと言われてきた衛星放送や配信。WOWOWのドラマは映画的なクオリティーで大人向けのドラマを作ってきたが、最近は、Netflixやアマゾンプライムなども続々ドラマを制作している。

それこそ、地上波ではできない攻めた内容を謳うことも多いが、その線引も難しい。

TBS、WOWOW、テレビ東京などが組んで作ったParaviは人気ドラマ「SPEC」のシリーズ作「SICK’S」を配信した際、YouTubeなどで短いものが好まれるということから数分に分けて毎日配信する「ピンチョス配信」を試した。

また、スピンオフ「サトリの恋」では冒頭に、堤幸彦監督と植田博樹プロデューサーのインタビュー(手前みそだが聞き手は筆者である)をつけていて、それがほとんどP音で消され、聞こえないようなっている。

コンプライアンスが厳しくなったこと、視聴者から「ネタバレ」をいやがる声がSNSを通して寄せられることなどがあり、言えないことが増えた現代を象徴するかのような作りだ。

堤監督は以前から地上波や映画でモザイクを過剰にかけて笑いをとる手法をやっていたのだが、配信になってさらにいくらでもやれるようになったといえるだろう。

■やっぱり朝ドラが強い 各局、模索

YouTubeで配信されている「アストラル・アブノーマル鈴木さん」は各話10分弱のドラマ。NHKの朝ドラ「ひよっこ」で注目され、夏にはTBS日曜劇場「この世界の片隅に」の主演にも抜擢された松本穂香が主演で、「夜の連続YouTube小説」とナレーションが入る。地方都市でくすぶっているマイルドヤンキーぽい女の子の物語だ。

「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」では、テレビ東京が作る朝ドラ「しまっこさん」という劇中ドラマを撮影する話で、その設定はまさに朝ドラであった。

「越路吹雪物語」(テレビ朝日系)は、朝ドラを意識した“昼ドラマ”として2017年からはじめた枠の第三段。戦争を間にはさんだ昭和、宝塚スターとして生き抜いた越路吹雪の一代記はまさに朝ドラテイストだった。朝ドラ以上に朝ドラという声も。

「この世界の片隅に」も戦争中のホームドラマで、松本穂香以下、朝ドラ出演者が多数出演していた。これだけ朝ドラを意識したドラマが各局で作られているのは、朝ドラだけがほぼずっと視聴率20%を越えている人気作だからだ。

12月になると、福山雅治プロデュース、主題歌、バカリズム脚本の“朝ドラマ”「生田家の朝」(日本テレビ系)がはじまった。

これまた「カーネーション」のヒロインだった尾野真千子がおかあさん役で出演し、ユースケ・サンタマリアがお父さんの四人家族の物語。福山が「いってらっしゃ~い」と毎朝歌って送り出してくれるかのような趣向で、朝ドラがはじまる前、7時50分くらいからはじめると考え抜かれた戦略である。

朝ドラはなぜ人気かというのは「15分と短い」「家族で観られる」「既視感をうまく使ったわかりやすい物語」という前述した昨今求められているものが詰まっているからであろう。

*     *     *

以上、2018年、気になった現象とドラマを駆け足で振り返った。

テレビ離れと言われて久しいが、ネットニュースで上位に来るのはテレビドラマの話題。2019年、平成が終わり、新元号になる、過渡期、テレビドラマはどうなっていくのか引き続き、見守っていきたい。


dmenuTV2018年12月20日公開


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?