ついに完結!朝ドラ「まんぷく」が現代へ提案したもの

朝ドラこと連続テレビ小説「まんぷく」(脚本:福田靖)が半年間全151話の放送を終えた。

インスタントラーメン、カップヌードルで親しまれている日清食品の創始者・安藤百福の妻・仁子をモデルにした福子(安藤サクラ)をヒロインに、百福をモデルにした萬平(長谷川博己)と二人、逆境にめげず、二人三脚(あなたとあなたとトゥラッタッタ♪)で歩んでいくドラマ。

若いふたりが出会い結婚し、戦争を経て、塩作り、栄養食品開発、脱税で逮捕され、信用金庫の理事長に就任し、とじつにめまぐるしい人生を送ってきた。ときに絶望のどん底に突き落とされても這い上がり、やがて、即席麺を開発し、会社〈まんぷく食品〉が大きくなっていく。時代は大阪万博が行われた1970年に。

■〈まんぷくヌードル〉と〈生前葬〉は朝ドラからの新提案!?

最後の1カ月のハイライトはふたつ、〈まんぷくラーメン〉に次ぐ新商品〈まんぷくヌードル〉開発と、福子の母・鈴(松坂慶子)の〈生前葬〉。このふたつはまるで違う次元の話のようで、じつはとても親和性がある。どちらも新たな時代に生きる者たちに向けた生活スタイルの提案であった。

〈まんぷくヌードル〉は、最初から容器に入っていてお湯を入れただけで食べることができる手軽な食品。しかも具が入っているところが、袋麺(まんぷくヌードル)とは違う。萬平は若手社員たちを集め開発チームを作り、カップの形状、素材から、スープ、麺の製法、具材の選定、製造方法などを徹底的に追求し、理想の商品を作り出すも、多くの人たちがそれを受け入れることができない。まず、価格設定100円が高いというのがネックだった(実際の70年代前後では、カレーライスが150円、大福の上物が100円)。

一方、〈生前葬〉。第1週、咲(内田有紀)が結婚すると聞いたとき、よくできた娘を手放したくないがためにお腹が痛いと仮病を使って話をそらそうとした鈴。あれから何十年。病気知らずで80歳まで生きてきた鈴が突然、腹痛で倒れる。大腸憩室症という命にかかわる病だったが、手術が成功して九死に一生を得たのち、鈴は、元気なうちに家族や知人に「ありがとう」を言いたいと〈生前葬〉を企画する。新聞で見て、図書館でも調べ、実際に行われていることだというのだ。が、みんな、戸惑いを隠せない。

■ドラマに描かれた現代との接点とは?

〈まんぷくヌードル〉も、〈生前葬〉も、前例がない(生前葬はあるにはあるがポピュラーではない)ものだから誰もが尻込みする。だが、福子と萬平の子ども・まんぷく食品の新入社員になった源(西村元貴)と就職目前の大学生・幸(小川紗良)は未知なるものに興味を示す。

ここは、新世代の台頭を描きつつ(まんぷくヌードルのデザインも忠彦〈要潤〉の弟子・名木〈上川周作〉になる)、萬平や鈴の旧世代にも花をもたせる構成になっている。萬平は60歳になって一時は幸から「考え方が古い」と言われたりもしながら、結果的に彼の発想・まんぷくヌードルは若者から火が着いて人気商品になった。鈴の生前葬も、やってみたら、意外とみんな受け入れる。元気なうちに、思い出を振り返り、素直に感謝を言い合えたことで、その後、家族がいがみ合わず優しい気持ちで過ごせるようになった。

高齢化社会に伴う、高齢者の現役時代の延長および、新旧世代が手を取り合っていく共同生活の提案をうまいことドラマに込めたといえるだろう。

実際、萬平のモデルである安藤百福は90代まで元気で、宇宙食ヌードルを開発するという偉業を成し遂げているので、いまの時代が求める高齢者の理想である。

■作品に刻まれた主人公・福子という存在

とまあ、ここまで書いてきて、萬平と鈴で物語が締められてしまったように思うが、忘れてはいけない、主人公はあくまで“福子”なのだ。

彼女が主人公であることを萬平が常に「福子のおかげ」と言うことで示してきたことも、斬新なドラマのスタイルの提案であるといえばいえなくもない。実際、萬平の発想のヒントになることを、常に彼に寄り添ってきた福子が気づき提案していたし、とにかく、変人な萬平の言うことをうんうんと聞いて、彼の才能を信じ続け、たまに行動が行き過ぎたときに叱るという扱い方を心得ていたことが、萬平を導いていたことは確かである。年をとってからの萬平は、自分の最高の理解者を福子と言ってはばからず、頼り切るようになっていた。

安藤サクラは、夫ファーストで自意識が抑制されたキャラクターを、漂白された好人物として演じるのではなく、適度にノイズをまぶし、やや素っ頓狂な人物として演じ続けることで、福子をしっかりドラマに刻みつけた。朝ドラに主人公は「明るく元気でさわやか」が理想とされるが、安藤サクラの野良猫のようにたくましく、どこかざらりとした感触を愛してやまない視聴者を獲得したのも、ひとつの発明といっていい。

ともあれ、蓋を開けてみたら、主人公は「ラーメン」だったという気もしないではない。「ラーメン」にはじまり「ラーメン」に終わる。そもそも、福子と萬平は最初のデートでラーメンを食べていた。福子がラーメンを好きだったことが、天才的な頭脳をもつ萬平の人生を麺人生へと規定したといっても過言ではない。視聴者が「ラーメン」が食べたくなるようアクションし続けた俳優の皆様、おつかれさまでした。

dmenuTV2019年3月31日公開


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