人間賛歌があふれ出た! 夏ドラマ振り返り!! 9月に終了したドラマを総括してみる。


■様々に描かれた愛の形とは

最も求められたのは、ヒューマン・ドラマだったかと思う。

なんといっても最終回、視聴率が19.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)まで上がった綾瀬はるか主演の「ぎぼむす」こと「義母と娘のブルース」(TBS系)。血のつながっていない娘を小学生から大学受験まで女手ひとつで育てあげた徹底して仕事人間の亜希子(綾瀬)を中心に描く、四コマ漫画を原作にした新型ホームドラマ。

悪い人がいないというのは作品を褒めるときの常套句のひとつではあるが、ほんとうにそれでいい、それがいいというドラマで、亜希子の生真面目さにはじまって、娘・みゆき役の上白石萌歌の初々しさ(子役の横溝菜帆も良かった)、途中で亡くなってしまう娘思いの夫・良一(竹野内豊)の善人さ、後半、亜希子に恋するパン職人の麦田(佐藤健)の素朴さ、みゆきの友人・大樹(井之脇海)の誠実さ……誰もが誰かのためにせいいっぱい動いてそれが奇跡を生む。そんなハートウォームでファンタジックなドラマを、脚本家の森下佳子が適度にユーモアを散りばめてテンポよく見せた。この家族の話はシリーズ化してほしい。


世のニーズに抗えなかったか、結果的にあったかい世界で終わった「高嶺の花」(日本テレビ系)。愛憎渦巻くドロドロドラマで、華道の名門の長女に生まれたヒロインもも(石原さとみ)が跡取りにまつわるお家騒動に巻き込まれ、そんな彼女を庶民のぷーさん(峯田和伸)がひたむきに愛する物語が主軸だが、最後はハッピーエンド。ももが芸事も愛も手に入れてホッとした。もう一本の線だったヒロインの妹・なな(芳根京子)と彼女に近づいてきたライバル華道家の龍一(千葉雄大)の顛末が良かった。欲望に塗れ汚れた男の心を彼女の清らかさできれいにするという。こっちのほうがテーマじゃないかという気さえするほどだが、姉も妹もどちらもそのエンドの形も“純粋な愛は世界を救う”なのであった。

■リアルな社会と向き合う

新人ケースワーカー、義経えみる(吉岡里帆)が生活保護受給者の人生に寄りそい、奮闘するドラマ、「ケンカツ」こと「健康で文化的な最低限度の生活」(カンテレ・フジ系)は様々な問題を抱え、人生に行き詰まった人々と、そして彼らを取り巻く社会と向き合い続けるケースワーカーたちの姿をじっくり描き続けた。


法を知らずにバイトをして不正受給を言い渡されてしまう少年、父親から性暴力を受けていた青年、識字障害でなかなか仕事が見つからない男、アルコール依存症に苦しむ男、育児放棄する女性などなど、それぞれ事情を抱えた人々が一歩でも前へ進めるように、辛抱強く支えようとするケースワーカーたち。でも彼らもまたひとりでなく仕事仲間がいるからやっていける。カンテレ制作の火曜9時は現代社会の問題に取り組んでいるところに今後も注目したい。


現代社会の問題に真摯に向き合ったドラマがもうひとつ。産婦人科で日々起こる生と死の物語を看護師見習い・アオイ(清原果耶)の視点で描いた「透明なゆりかご」(NHK)。

赤ちゃんがこの世に生まれてくるまでは容易ではなく、様々な出来事を乗り越えてこの世に生を受ける。生まれてハッピーなこともあれば、その一方で亡くなってしまうこともあるし、望まれて生まれてくる命だけでもない。中絶、生まれたばかりの赤ちゃんの死などそれだけでもショッキングなのに性暴力にあった幼い少女のエピソードも描かれた。激情的に描くでもなくさりとて淡々とするだけでもなく、感情の振幅から目を逸らさない精神の強さを感じる力作。「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」のドラマや映画でも生と死に向き合っていた安達奈緒子の脚本がこのドラマで昇華した。

■未来へのエール

ヒューマンといっても、少々おとぎ話のようなところのある「ぎぼむす」や「高嶺の花」に対して、リアリティーを意識している「ケンカツ」「透明なゆりかご」と、作風は異なるが真面目に家族や愛情や命や社会生活について考えることを促すようなドラマが多かった。

「グッド・ドクター」(フジテレビ系)も、自閉症だが天才的な能力をもつというサヴァン症候群の医師(山﨑賢人)を主人公に命と向き合ったドラマで、視聴率も高かった。



家族と社会が密接に結びついたドラマといえば、日曜劇場「この世界の片隅に」(TBS系)。広島市・呉に嫁いだヒロインすず(松本穂香)が戦争に翻弄されながらも、夫(松坂桃李)に添い遂げ、自分の居場所というものを見つけ守っていく。こうの史代の人気漫画が初めて連ドラ化されるにあたり、ドラマ版のオリジナルとして現代パートが加わった。すずとどうやら関係がありそうな女性(榮倉奈々)が呉を訪れ、すずの家をリノベーションして住もうと考える。視聴者から賛否両論あったものの、当時の記憶を後世に残したいという思いを感じたことと、ちょうどドラマが始まった頃、広島の豪雨災害は起こり、公式サイトでは被害に遭われた方々へのコメントが掲載されたこともあり、最終回、すずが広島カープを応援している描写は、過去から現在、未来へと続く“広島”へのエールとも思えた。これもまた人間賛歌のドラマといっていいだろう。


■テレビドラマのターニングポイント

ほかには、山田孝之×菅田将暉のミステリー「dele」(テレビ朝日系)。デジタルの遺品整理という今日的なテーマが刺激的だった。

 

月9「絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜」(フジテレビ系)も未然に事件を防ぐというこれからの世の中を予見するようなミステリーで、秘密をもった刑事役の沢村一樹が怪演し視聴率もまずまずだった。


夏は行楽シーズンでもあり、家にいないことも増えるので、軽めな作品やテッパンのミステリーもので各局来るかと思いきや、ふたを開けてみたら意外や問題意識の高い作品が集まった。夏休みも間に入ることもあり、家族で見て考えて会話できるものという目論見だったのだろうか。一時期は警察ものが人気ということもあって、「真実」というやや漠然とした言葉がやたらとドラマで発せられていたが、わからない真実よりも、いまは「命」や「愛」「生活」という具体的なモチーフを描くドラマにシフトしてきているようにも思える。「ぎぼむす」や「透明なゆりかご」などの出現によって、振り返れば、2018年夏がテレビドラマのターニングポイントだったということもあり得るかもしれない。

dmenuTV2018年9月28日公開

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