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自民党総裁選:海外メディアの質問に答えました。

海外メディアからのメールでの取材に対し、以下の通り答えました。

『1.現職の菅義偉首相が間もなく行われる総裁選への不出馬を表明し、短命政権が再現したことで、日本は再び頻繁な首相交代を迎えるか?』

第二次安倍政権が、日本では異例の長期政権となったのは、安倍晋三首相が第一次政権(2006年9月ー2007年9月)が短命政権となった失敗に学び、同じ失敗を繰り返さないために「安全運転」の政権運営を行ったからです。それは、「世論を高く維持するため」に、まず国民の関心の高い経済政策に集中すること。経済政策は、痛みを伴う「構造改革」を避けて、利益分配を「異次元」の規模で行う「アベノミクス」を行った。アベノミクスは国民の多数派が従事する大手製造業とその子会社・関連会社の中小企業を延命させる効果があり、多数派からの支持を得ることができました。

安倍首相は、本来「保守的」な政策志向を持っていましたが、あくまで「高支持率の維持」を優先し、その上で、少しずつ「安保法制」「特定秘密保護法」などを進めていきました。一方、安倍政権は国内政策に関しては、「女性の社会進出」「待機児童問題の解消」「外国人労働者の受け入れ」「教育無償化」など、本来野党が取り組むべき「社会民主主義的」な政策を実行し、「無党派層」「都市部の中道層」の現役・子育て世代の支持を得て、野党を弱体化させました。野党は、コアな左翼層(日本全体の10%以下だと思います)の支持を得るしかなくなりました。

以上が、安倍政権が長期政権化した理由だと考えます。逆に言えば、この状態を作れなければ、日本において長期政権を築くことが難しいと考えます。現在はコロナ禍で、安倍政権の大部分の期間を占めた、比較的平和な状況は得られません。政権はなにをやろうとも批判を浴びやすく、支持率が低下すれば、首相を引きずり降ろそうという動きが党内から出てきます。それに輪をかけるのが、日本は選挙の回数が多いことです。3年に1度ずつ参院選挙があり、その間に4年任期ながら解散が頻繁に行われる衆院選がある。そのたびに「選挙の顔」が誰かが自民党内で重要となり、今回の菅首相のように、辞任に追い込まれるリスクにさらされることになります。したがって、誰が次の首相になろうとも、長期政権を築くのは、非常に難しいのではないかと考えます。

『2.「疑似政権交代は、自民党内の権力闘争と政策論争に国民の関心を向かわせた。」と主張されてますが、総裁選挙で派閥の力が大きな影響を持つと思われますか?』

「疑似政権交代」が行われていたのは相当に昔の話です。1993年の選挙制度改革で、小選挙区制が導入されて以降、1つの選挙区に1つの公認候補という形になり、派閥のリーダーよりも党執行部が公認権、資金配分権、人事権の権力を握りました。その結果、派閥は力をなくしました。それが今の状況です。今の総裁選の状況は、圧倒的な権力を持っているとされる二階幹事長と、前首相・前総裁として影響力を維持していると思われる安倍前首相の影響力がどれくらいあるかが焦点です。すでに、この2人の動きにより、派閥はまとまって行動できない状況になっていると思われます。

政策的にも、岸田氏、高市氏は「アベノミクス」の継承に近い政策を訴え、河野氏は脱原発、女系天皇など持論を封印し、安倍氏の支持を得ようとしていると思われます。したがって、政策的な競争が狭まっており、かつてのような「疑似政権交代」のような状況は生じていないと考えます。

『3.今回の自民党総裁選で派閥の動きがまとまらないみたいです。理由は何ですか?』

2.と同じ理由です。まず、制度的な問題。選挙制度改革以降、党執行部の権力が強まり、派閥が弱体化しました。その結果、派閥の議員に対する締め付けが効かなくなりました。派閥とは、元々そのリーダーを総理総裁にするために集まったものですが、今は派閥のリーダーを総理にするより、誰がリーダーなら選挙に勝てるか(自民党が勝つと同時に、自分の選挙も勝てるか)がより重要となっているということです。

それと、総裁選で負けた候補を支持していた際に、選挙後に新しい総理総裁の下で、役職や資金で冷遇されることを恐れ、いわゆる「勝ち馬に乗ろう」とする動きが出ています。勝つ候補者を支持して、選挙後にポストを得て出世しようということです。したがって、今後どの候補者が勝ちそうかの情勢がはっきりしてくると、その候補に地滑り式に支持が集まる可能性があります。

『4.自民党総裁選をめぐり、若手議員が「党改革」を訴える派閥横断型の議員連盟を10日に立ち上げました。中堅・若手が派閥を超えて派閥横断的に集まって、党内力学が変わる可能性がありますか?』

あまり変わらないように思います。党改革を訴えるといっても、誰が「選挙に勝てるか」以上の発想はなく、若手が自分たちが主導権を持つ政権を作ろうという意欲はないように思います。むしろ誰が自分を「勝たせてくれるか」という受け身なものを感じます。候補者の政策を比較し、選挙の勝敗に影響を与えるかもしれませんが、その政策は、あくまで候補者の政策を選ぶのであって、若手の政策ではありません。

かつてであれば、自民党総裁選には「若手代表」が立候補し、敗れても、次世代のリーダーとして台頭し、選挙後も改革を訴えたものですが、そういう若手はいません。小泉進次郎でさえ、まったく立候補を考えていないのです。

『5. 岸田文雄氏、石破茂氏、河野太郎氏、高市早苗氏は立候補として、それぞれのコアの競争力について、どう考えられますか?』

私は岸田文雄氏は評価していません。首相の資質に欠けるとさえ思います。これまで何度も首相の座を安倍氏から「禅譲」してもらえると信じ、裏切られた。河井杏里氏の巨額買収事件は、買収した側が有罪となりましたが、「買収された側」は岸田氏の陣営です。自分の陣営でさえまとめられず、総理の座を譲ってもらえると信じて裏切られるようなお人よしで、脇の甘い人物に日本の首相が務めるでしょうか。私は疑問です。ですが、自民党内の力学で、今回最有力候補であることはいうまでもありません。

石破茂氏は、安全保障政策や地方活性化に確固たる持論を持つ本格的な政治家です。若い頃は、政治改革のリーダーの1人であり、行動力も経験も持っています。しかし、人望がない。党内多数派をまとめられず、今回も立候補すら困難です。また、政策では前述の通り本格的過ぎて、安全保障などでは、野党などの反対にあい、国論を二分することになります。なかなか政策を実現できないでしょう。

河野太郎氏は、発想が豊かであり、新しいものに対する鋭敏な感覚がある。また、SNSなどでの発信力に優れています。一方で、目立ちたがり屋であることが嫌われる面があり、石破氏同様党内で多数派をまとめる人望に欠ける。また、感覚は優れているのですが、大局観に欠ける感じがします。例えば、行政改革を担当しましたが、「ハンコ」を押すのを減らすといい、SNSでハンコ屋をバッシングするようなことを言ってしまう。日本の行政組織全体をどう新しい事態に合わせて変えていくのかという大局的な考えは、みえてきません。

彼のお父さん(洋平氏)の師匠は中曽根康弘氏で、中曽根行革は財界の大物らを集めた会議を開き、大所高所からの議論を行い、それを世論に訴え、NTT民営化、JR民営化などのだいかいかくを実現しました。そういうスケールの大きな改革を目指してほしいのですが、出てくる話はSNSでの細かな話ばかりなのが残念です。

高市早苗氏は、総務相を務めた期間が歴代最長で、抜群に仕事のできる政治家だと思います。一方、リーダーシップを発揮した経験はほとんどないように思います。今回の立候補も、自分の仲間がいて、望まれて出たわけではなく、自分から手を挙げて、安倍前首相ら党内保守派に支持してもらおうという形です。福祉削減、同性婚反対、選択的夫婦別姓反対、安全保障の拡大と保守的な政策を打ち出してますが、若い頃は女性の社会進出を訴えており、本当の保守というより、保守派の支持を得るために言っているだけのように思います。その意味で、首相になったら、古い世代の傀儡政権になる可能性が高いことが、懸念材料です。

一方、古い世代があまり関心を持っていない「日本のデジタル化」とか「新しい産業を育てる」という政策については、抜群に仕事のできる政治家だけに、菅政権時代よりもうまく進める可能性があります。他の候補者よりも手堅く進めていくとも期待できます。

また、保守的で多様性の実現に後ろ向きに見えますが、なんだかんでいって日本に「女性首相」が誕生する意義は大きく、日本社会全体を大きく変えていく可能性があると思います。その意味で、今回の候補者の中で、最も日本社会を変える可能性があるのが、高市氏だと思います。

『6. 河野氏といえば、政治家一家に生まれ育った「政界サラブレッド」で知名度が抜群。SNSで自身の政策発信を続けており、党内の若手議員を中心に人気を集める。ただし、ベテラン議員には、河野氏の出馬に否定的な声が強い、所属する麻生派も混迷を深めています。こんな現状について、どう思うでしょうか?』


河野氏の若手人気というのが、「選挙の顔」にふさわしいのではないかという表面的な部分にとどまるのに対し、麻生太郎財務相の「河野評」のように、発信力と発想はいいが、政策を実現していくには、それだけでは不十分で、多くの支持を取り付ける調整力や説得力などが必要ですが、その部分ではまだ力量不足と、党内のベテランから評価されているということではないでしょうか。調整力だけの政治家がいいわけではありませんが、日本の首相を務めるには、まだ政治家としての完成度が低いというベテランの評価は、当たっている部分はあると思います。

『7. あるジャーナリストは、自民党内における“本当の実力者”は安倍前総理であり、今回の総裁選も、“安倍路線か反安倍路線かを見極める争い”との見方を示している。上久保教授から見れば、安倍晋三前首相は選挙にどの程度の影響を与えているのでしょうか?』


安倍前首相が本当の実力者かどうかは、正直よくわからない。今回の総裁選を通じてわかるんじゃないかなと思ってます。というのは、前述の通り、首相、幹事長など党執行部が強い権力を持つのは、人事権、資金配分権、公認権などの権限を持っているからです。前首相には、これはありません。また、安倍前首相は無派閥で、細田派の会長でもありません。保守派の議員連盟の顧問などをやっていますが、政策的には一致していても、お金を配れる組織ではないので、メンバーに対する強制力はありません。要は、安倍前首相は、自民党の議員に対して、なにかを強制できる立場にはないのです。その安倍氏が、自民党総裁選の結果に影響を与えるというのは、私は懐疑的です。

現在、安倍前首相が実力者のようにみえるのは、長期政権の「幻想」が残っているためではないでしょうか。それは、次第に消えていくものであり、今後、総裁になる人や、二階氏二代わり幹事長などになり、実権を振るう人が、次第に実際の力を持っていくのだと思います。

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