見出し画像

自民党総裁選:海外メディアの質問に答えました(2)

総裁選投開票の前だったんですが、別の海外メディアの質問に答えてましたので、覚書的に残しておきます。 

(質問 1)今回の総裁選では3年ぶりに党員投票の結果も反映される。そして、その「党員票」に割りふられるのは議員票と同数の382票で、投票権を持つのは全国の自民党員ら110万人余り。党員はどのような基準で投票しますか?今回、党員の選択が総選挙の結果にどの程度影響を与えると思いますか?

(回答)党員は、これまでと違い、自らの判断で投票しようという動きが広がっているように思います。これまではそうではありませんでした。国会議員→県会議員→市会議員→中小企業、農協、商工会議所や町内会など、というピラミッド型のネットワークを自民党は持っており、中央から地域への利益誘導と投票行動は強く結びついていました。しかし、今回は、候補者の政策を実際に聞いて1人1人が投票する動きが広がっており、議員から党員への締め付けは弱くなっているように思います。実際、何人か電話して聞きましたが、政策を聞いて投票したという動きが大きいです。

いくつか理由はありますが、1つは、公共事業の削減等で、中央から地方への利益誘導そのものが減っていることが大きな流れです。その上で、小選挙区制の定着で、野党との政権交代をめぐる戦いが重要になり、政策のしっかりした首相でないと野党との競争に負けてしまうかもしれないという危機感があります。そしてなにより、コロナ対策やデジタル化の遅れ、安全保障・外交に対する危機感が国民に広がり、利益誘導などで首相を決められないという危機感が国民にあると思います。

今日のテレビ新聞等を観ますと、現在の情勢では議員票は、岸田、河野、高市がそれぞれ3割程度を固め、大接戦です。勝負を決めるのは党員票となっており、非常に重要ですが、前述のように国会議員からの締め付けが効かず、どうなるか読めません。河野が党員票で大勝しても、合計で過半数獲得は難しく、決選投票になるでしょうが、河野が党員票で大勝すれば、決選投票で一挙に河野が大勝する可能性があります。その前例として、2001年の総裁選で、党員票で大勝した小泉氏が派閥の締め付けを崩壊させた最終的にも勝利した事例があります。逆に、河野がそれほど党員票が取れなかった場合、派閥の締め付けが効き、岸田・高市の2・3位連合が形成され、岸田が勝利する可能性があります。

だから、最終的な勝利は、1回目投票の党員票がカギを握っていると考えます。

(質問 2)教授は答えの中で「選挙の顔」に言及した。自民党員の期待がいっそう高まるのは、衆院選を間近に控え「選挙の顔」を直接決めることになるからだという声があります。今回の総裁選で、「選挙の顔」選びが優先されていることだと思いますか?


(回答)はい。今回の総裁選の特徴は、その直後に絶対に総選挙があることです。ゆえに、いつもの総裁選以上に「選挙の顔」選びが重視されているのです。若手の行動など、派閥の締め付けが効かないのも、総選挙が直後にあることが重要です。

(質問 3)自民党総裁選は、事実上次の首相を決める選挙ですが、一般国民に選挙権があるわけではない。ただし、候補者は地方への遊説や大勢の聴衆を集めた演説会を控え、ネットを活用して政策をアピールします。自民党総裁選で、世論はどのような役割を果たしていると思いますか?

(回答)確かに自民党員は110万人で、全日本国民の100分の1です。ただし、前述の通り、自民党のネットワークは社会全体に広がっており、誰でも(野党の関係者でも)、どこかで自民党と関係があったりします。その意味で、自民党の党員票と世論は、そう大きな解離はありません。あえていえば、自民党員か、そうではないかで明確な違いはないのです。自民党も、基本的には党員向けというより、国民向けに政策を実行しています。ゆえに、党員だけに限定した集会などは自民党は行わず、ネットであれ街頭演説であれ、国民向けに行うことが、イコール党員向けであるということで、各候補は活動しています。

ただし、自民党候補者の政策志向は、総裁選前と総裁選後で少し変わることがあります。というのは、総裁選では、自民党内に強い影響力を持つ遺族会や日本会議など保守系に配慮した政策を訴えます。河野が「女系天皇」の持論を引っ込めたり、高市が保守色を前面打ち出しているのが事例です。ただし、それは、総裁選が終わり、総選挙になると変わります。総選挙では、よりリベラルな政策を訴え、実際に実行します。安倍政権が好例です。安倍政権は保守色が強かったですが、実際には移民政策や全世代社会保障、女性の社会進出、教育無償化など、リベラルな政策を次々と打ち出しました。

なぜこのようなことになるかといえば、総裁選では保守票が一定の影響力を持ちますが、総選挙ではそうではないからです。なぜなら、保守は野党に投票することは絶対になく、ほっておいても自民党に投票します、一方、総選挙に勝つために自民党は、都市部の中道層、子育て世代やサラリーマンなどの票を野党と争って、獲得する必要があるからです。

(質問 4)総裁候補者の対中政策は非常に厳しいみたいですから、誰が総裁になれば、中日関係が大幅に改善することができないという見方があります。外交政策について、教授はどう考えられますか?


(回答)外交政策はだれがなっても変わらない。同じと思います。ただし、前述の通り、総裁選では対中政策は厳しい訴えをしますが、総裁選が終わった後は、中国との経済関係を現実的に考慮した対応に変わると思います。日本外交の基軸は日米同盟であり、これに英国、豪州、インドなどとの関係強化が基本だと思いますが、米国などとは一線を画し、中国との間に入るような形になっていくと思います。これは、4候補誰が首相になっても変わらないと私は考えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?