「だんす・おん・ざ・ばんぱいあ&ぬこーず」(3)

 ライフラインの復旧は直ちに始まった。
 バンドのライフラインは本来、直接東京にあるものを海底ケーブル他を使って行っているが、それはひとつっきりのモノではない。
 離島ではなく、またただの埋め立て地でもない「特区」であるという建前が、行政にはあるまじき「ライフラインの複合化」を行わせていた。
 つまり、ひとつのラインに二重三重のセイフティがかかっているのではなく、第二、第三のラインが「死蔵」された状態でつながっているのである。
「死蔵」されているから表向きの書類にも載っていない…………場合によっては完成寸前で「未完成」のまま放置されている、という扱いのモノもある。
 これらを起動、あるいは機能させるのはかなりの手間暇が(人員的なものから書類的なモノまで含め)必要だったが、それはあっさりと行われた。
 すべてはミナ・ツェペッシュという少女のカリスマと…………謎の「作業員」たちの存在である。
「作業員」たちは人間が入って作業を終了させるためには数日は必要な狭い場所の工事をわずか数分で終了させ、分厚い岩盤やわざと「破損」させることで機能しなくなった水門などを一瞬で撤去した。
 そして…………何よりも不思議だったのはその近くで警護していたバンド、および政府関係者の誰もその「作業員」の姿を見かけなかったという事実である。
 作業の開始と終わりはミナ姫直属のベイオウルフ部隊の誰か、もしくはメイドの誰かによって伝えられ、撤収もまたメイドが乗ってきたリムジン、あるいはベイオウルフ専用の作戦作業車一台のみであった。

 ともあれ、翌日にはライフラインはすべて復旧し、バンドは再び夜の輝きを取り戻し、地下もまた各種装置の復旧を行うことが出来たのである。

「はい、おつかれさまー」
 ベイオウルフの専用車両の後部扉が開き、中から頭から布きれをぐるぐるに巻いたちんまりした影がとてとてとこけつまろびつ現れると、メイドたちがきゃいきゃい言いながらその布を取り去り、子供用のプールの中に入れてはお湯と石けんで洗っていく。
 言うまでもなく「作業員」たちとはアシストロイドと呼ばれる宇宙人のお仲間…………というか作業用ロボットたちである。
 手に手にスポンジを持って真っ黒になった彼らを洗うメイドたちははしゃぎ声をあげて心底楽しそうである。
 子猫たち…………といっていいものかどうかはともかく……は「いやだいじょぶです」「じぶんであらえ(ま)す」「だめおむこにいけなくなり」とかプラカードを掲げているが、まあ、はしゃいだ女性の前では蟷螂の斧、全自動洗濯機の中の洗い物になるしか術はない。
「まるでお気に入りのオモチャで遊ぶ子供だな、ありゃ」
 ベイオウルフ精鋭の中でもリーダー格のレムスが珍しく苦笑を浮かべた。
「ネコは得だよなあ」
「まあ、猫だわなぁ」
「…………レムス」
 今回は居残り組だったカミーユがやってきた。
 手には小さな袋。
「ああ、例のもの、手に入れてくれたか」
「たぶん、サイズもぴったりだと思う」
「お前の『手』は実際の目で見たものよりも信じられるよ」
「でも、なんでそんなものが必要なんだい?」
「眼が見えるとな、いろいろ困ったことになったりするんだ。特に連想という奴が」
「?」
「ほら、あの『へいほん』というチビがいるだろう?」
「ああ」
「どーもな、弁髪のせいか何となく三子爵の李{李:リー}に見えてなあ…………」
「なるほどね」
「こういうものでもかぶせてやらんと、なんかうっかり虐めてしまいそうでな」
「なるほど」
 クスクスとカミーユは笑った。
「眼が見えるというのも厄介なものだね」

「なるほど…………」
 謁見室にエリスたちは改めて通され、ミナの「家臣」たちの前に「お披露目」された。
 ぽけっとミナはエリスを見つめた。
「ふむ、ふむ、ふむふむふむ」
 言いながらくるくるとエリスの周囲を回る。
「なるほど、間違いない、地球人類ではないの、お主」
「判っていただけたようでありがたいです」
「気配と匂いが違う、良い匂いじゃ」
「はあ……?」
「それに……なんとなく、お主には懐かしさを憶える」
「?」
「平行世界であるから故、なのじゃろうて……まあよい」
 ミナは頷いて周囲に向いて宣言する。
「かの者たちを妾の友人とし、友として遇することを命ず!」
 一斉に周囲の者たちが頭を下げる。
「意義あるものはおるか!」
「否でございます、姫様!」
 ほぼ全員が唱和した。
 しなかったのはミナの背後に控えるその護衛……暁・鏑木・レーゲンドルフこと鏑木アキラだけだ。
 彼だけが微苦笑でもってそれを聞いていた。
「かの者たちは我が友、故に何処への立ち入りも許可する、そして全ての者が妾を守るように守るべし!」
 そう宣言して「謁見の儀」は終わった。


「やあ、少し話さないか? 俺は鏑木アキラ」
「謁見の儀」が終わると女性連中はミナ姫とのお茶会に招かれ、手持ちぶさたにしている騎央に、アキラが声をかけた。
「あ、どうも嘉和騎央と言います」
 騎央は頭を下げる。
 ふたりは城の中庭にある噴水の近くに腰を下ろした。
 とててと「定やん」と「6」がその後をついてくる。
「大変だね、色々と」
「ええ、まあ……鏑木さんは人狼だと伺ってますけれど、本当ですか?」
「姫さんか……クチが軽いなあ」
 苦笑しながらアキラは頷いた。
「凄いですね……」
「怖がらないのかい?」
「怖い人には見えませんから」
 騎央は微笑む。
「随分度胸が据わってるんだな」
「いえ、全部信じるか、全部疑うか、って考えたら全部信じたほうが楽だと思ってるだけです……疑うのって疲れますから」
「そういえば、君は宇宙人の女の子を守って米軍基地に飛びこんだんだっけ」
「そんなことまでエリス喋ったんですか?」
「どうやらお互いの情報は女子には筒抜けだなーこれは」
「ですねえ」
 と二人は苦笑する。
「で、そっちの世界ってのはどうなんだい?」
「えーと、ですね」
 そんな感じで少年二人はお互いの世界について語り合った。
「なるほど、随分と複雑というか、こっちと余り変わらない部分と吸血鬼がらみで変わってる部分、宇宙人がらみで変わってる部分があるのか……」
「ですね、こっちはこっちで大変そうですけれど、テレビも漫画もアニメもあるんでちょっとホッとしてます……これまでの平行世界は文化面でも随分違うところが多かったですし」
「しかし、音楽が魔法で精霊が存在する世界か……姫さんが聞いたら喜びそうだな」
「そこに行ったのはアントニアと摩耶さんだけなんですけれどもね」
 二時間ほどそれから二人は話をしていたが、騎央の膝の上で二人の話を興味深そうに見上げていた「定やん」がひょい、と降りると騎央のズボンの裾を引っ張り、「だんさん、おなかすいた」とプラカードを掲げた。
「はいはい、分かったよ」
 と騎央は苦笑しながら立ち上がる。
「じゃあ、アキラさん、僕はこいつに何か食べさせてやりたいんですけれど、何処へ行けばいいですか?」
「ああ、だったら厨房へ直接いった方がいい。案内するよ」
「ありがとうございます」
 頭をさげる騎央の手とアキラの手を繋ぐように「定やん」が「ほないそぎましょ」と書かれたプラカードを背中に刺して握った。
「まったく…………すみません」
「いいよ、弟みたいだ」
 ふたりの少年は笑いあって、ぶらりと丁稚型アシストロイドをその手の間にぶら下げるようにして歩き始めた。

「…………来たわ」
 直線距離で言えば十メートルほど、位置は斜め上。
 広場を見下ろすバルコニー、お茶会をしていた部屋の窓で、偶然その光景を眺めていた三枝由紀の目が、常人ではない輝きを宿した。
「そうよ、ふと出会った旅人の少年、自分とは違う意味で大変な状況を必至に生き抜いている彼の身の上を聞き、その弟を介して仲良くなった彼は…………」
 などと呟きながら、制服の上着の中から最近購入したばかりの、折り畳みキーボード付き電子メモを取り出し電源を入れると、窓枠にそれを置いたまま、猛然と打ち始める。
「ああ、神が由紀さまの上に降臨したもうた!」
 固唾を呑んで由紀を見守っていたミナ姫のメイドたちが黄色い声をあげ、次に彼女が作り上げる「傑作」についてのあれこれを夢見はじめた。


「しかし、どうにも姫様のメイドのネーラ殿には親しみを覚えてしまいます」
 そう言ってアントニアが笑った。
「確かに、声がよく似てますよね、サラさんに」
「どういう奴なのじゃ?」
「まあ……なんといいますか……」
 ミナ姫の執務室で女性だけのお茶会は盛り上がっていた。
 上機嫌なミナ姫の巧みな話術に、エリスはあっさり引き込まれ、アントニアや摩耶も絶妙のタイミングで会話を盛り上げるという風情である。
 床には小さなクッションが置かれ、アシストロイドたちはその上でお茶会のお菓子をお裾分けしてもらって食べている。
 双葉アオイは、「ちょっとトイレ」と告げてその場を中座した。
 扉をそっと開けて外に出ると、ポーチの中からM60を抜いて撃鉄を起こしつつ、そのまま隣の部屋をノックする。
「立ち聞きは趣味が悪いわよ」
 静かに告げると、
「失礼」
 とドアが開いて漆黒の肌を持つ美少年が顔を出した。
「私の名前は知っているはず、あなたは誰?」
「人狼騎士団{人狼騎士団:ベイオウルブス}のアンヘル・アーベナント。アンジーって呼んでくれて構わないよ」
「そう」
 鋭い目でアオイはアンジーを睨み付けた。
「怖いね」
「ええ、この城の中で、姫様の言うことに逆らって私たちを敵を見る目つきで観察しているのはあなただけ、そして主である姫様の会話を立ち聞きしてる」
「よく分かるね」
「職業柄、人の殺意や気配には敏感なの……摩耶さんも気付いてるわ」
「すまない」
 素直にアンジーは頭を下げた。
「疑うのが僕の仕事でね」
「謝罪を受け容れるわ…………むしろヴァンパイアバンドがお人好しなだけじゃない場所なんで安堵してる」
 アオイは撃鉄を元に戻した。
 実を言えばここに来たのはそれだけではない。
「でも、何故姫様と鏑木さんにあんなに強い視線を向けて……いたの?」
 アオイの口調がいつもの調子に戻る。
「……」
 アンジーの顔に珍しく愕然とした表情が浮かんだ。
「何故、気付いた?」
 アンジーの声が尖る。
 アオイはふと笑った。
「私も、そういう目で騎央君とエリスを見ていたことが……あるから……切なくて、辛くって、哀しかった。あなたもそうでしょう?」
 そう言われた瞬間、アンジーの顔から昏いものがかき消えた。
「君も……?」
 滅多に見せないあどけない表情が浮かびまたかき消える。
「陽だまりみたいに見えた。あの二人の間を見てるとね」
「…………」
「でも、羨ましいなら、素直になったほうが……いい」
 アオイは少し前までの自分と同じ思いに身を焦がされている少年に提案するように続けた。
「日だまりが羨ましいなら、そこへいくしかない…………もの」
「自分の肌が焼け焦げてしまっても?」
「ええ」
「強いね、君は」
「いいえ…………弱いわ」
 きっぱりとアオイは言い切った。
「あの『牙無し』の子たちをみて自分の狭量さに反省しても、翌日には、でもやはりここは吸血鬼でいっぱいの怖い場所だと思っている………人狼であるあなたたちも同じように怖いわ」
 でも、とアオイは言葉を句切った。
「騎央君やエリスは違う。あの人たちは本当に強い……から」
「そうかな? 単に何も考えていないんじゃない?」
「違うわ、考えて、そう決断したら相手を疑わないだけ…………それは、信じるよりも強い心がいる……もの」
「…………宇宙人とそのカップルじゃしかたないね」
「違うわ、この世界にも、私のいる世界にも、必ずそういう人たちがいる…………私は、見たもの。あの人たちはその中のひとり。私もそうなりたい……と思う」
「それは君の旅人としての見識?」
「いいえ、むしろあなたと同じ、守り、場合によっては攻撃するものだから」
「矛盾しているよ、僕らはすべてを疑い、倒すことを常に考える存在だ」
「何のために、が抜け落ちていては意味がないわ」
 アンジーの皮肉めいた言い回しに、少女は引っかからなかった。
「アキラさんと、ミナ姫の間が羨ましいなら、割って入るのではなくて……一緒になる、という道もあるんじゃないか、と思う…………わ」
 恥ずかしげに少女は顔を伏せた。
「一緒?」
「愛の形は…………いえ、何でもない、忘れて」
 そう言って少女は足早にその場を立ち去った。

 足早に廊下を去りながら、アオイは己に恥じていた。
 何を格好いい事を言おうとしたのだろう。
 まったく自分に似合わない。
 第一、自分だって今の状況を完全に受け入れたわけではないし、今でも少しぎくしゃくしてるのに。
 でも、言いたくなったのだ。
 あまりに…………あの褐色の美少年は、少し前の自分に似ていて。
 とても羨ましそうな目で、あの二人の作り出す日だまりを、遠くへ追いやられた状態で、歯ぎしりしながら見ていた頃の。
 そして…………これはこの世界に居ない、彼女の親友が最近貸してくれた小説の影響でもある。
 借りた小説では、ある少年が別の少年に密かに思いを寄せ、しかしその立場から想いを打ち明けられないままスレ違いと裏切りが起こる結果となり、彼は死に、思いを寄せていた少年はその亡骸を抱きしめて号泣し、狂ってしまう。
 その小説を読みながら、アオイは泣いた。
 そして、あのアンヘルはまるで…………まるで…………あの小説の死んでしまった主役の片方のように思えた。
(物語の結末を変えようとでも、私は思っているのかしら?)
 それは、テレビのヒーロー物にのめり込んだ児童が、本物の暴漢に跳び蹴りを食らわせようとするような愚かな事だ。
 自分の頭の上の蠅を追えない者が、何を、と思う。
 でも、言わずには居られなかった。
 その矛盾がどうにも少女にはわからない。
 自分のことだというのに。

「…………」
 褐色に銀の髪の美少年は黙ってその背中を見つめていたが、いつの間にか背後に別の気配を感じて振り向いた。
「ごきげんよう」
 微笑んでいるのは顔に傷のあるメイド…………摩耶だ。
「さすがですね、後ろをこんなに自然に取られたのは初めてです」
「いえ、あなたが多少物思いにふけっていたからこそですよ」
 静かに摩耶は言った。
「お嬢様をお一人にしていいんですか?」
「ええ。ミナ姫とご一緒ですし、ヴェラ様もいらっしゃいますから」
「信用しているんですね。ここは吸血鬼の館ですよ?」
 多少の皮肉のこもった声に、摩耶は微動だにせず。
「はい、あなたたちもそう{そう:傍点}でしょう?」
 と目を細める。
 こちらもこちらでかすかな毒があった。
「何か、トゲのある言い方のようですが」
「いいえ、トゲではなく、アドバイスのきっかけとして混ぜたニュアンスです」
 薄く摩耶は微笑む…………本心の分からない、謎めいた笑み。
「複雑な情勢をお背中にお持ちのようですが、あの方がお好きなら、そのすべてを打ち明けて飛び込むべきでしょう。戦いは別に武器を取って相手の命を奪うことばかりではありませんよ」
「どういう意味…………ですか?」
「自分のすべてを相手に預ける戦いもあります、人と人の間には」
「…………」
 じっと、アンジーは摩耶を見つめた。
 底光りする目は、観察というよりも、敵を見つめる殺意に近いものを含んでいた。
 摩耶は泰然と動かない。
 数秒間、その場の半径二メートル以内の空気が凍り付いた。
「…………なるほど、ヴェラ殿が相打ち寸前になるはずだ」
 はっとため息をついて、アンジーは先ほどの表情がまるで無かったかのように微笑んだ。
「しかし、随分とぶしつけですね。昨日今日会った相手の中にそこまで踏み込む権利は如何に姫様のお友達の従者とはいえ無いと思いますが」
 アンジーの言葉に入った露骨なトゲを、今度も摩耶は無視した。
「道に迷っている人を見かけたら、何処が北かぐらいは教えてやれと、親に教わりましたモノで」
 摩耶は平然として答える。
「僕が…………見失っていると?」
「ええ。北と南は分かっていても、東と西を取り違えてしまうことは、人生にはままありますから」
「…………」
「大事なモノを自分のものにしたいのは人の心の当然ですが、それが自分のモノではあり得ないと思い込んだ瞬間、愛するあまり、己の血と骨を使ってまでも傷つけたくなるのも本能。しかし、出来れば誰もが幸せ、が一番でございますよ、アンヘル殿」
「でも、その方法がなかったら?」
「私の知り合いのイタリア人の家具職人が言ってましたが…………椅子が足りないときには奪うだけではなく、作る方法もありましょう」
「…………」
 先ほどの微笑みがかき消え、また氷のような無表情になるアンジーに、摩耶はそっと囁くように言った。
「アキラ様の隣りにはミナ様の場所しか無くても、アキラ様の後ろ、あるいはその反対側にはまだ場所があるかもしれませんよ?」
「…………」
「少なくともあの双葉アオイという少女は、嘉和騎央という少年と、エリス様の間に、自分の居場所を作りました…………いえ、もともと空いていたところに座る決意をして、実行したのです」
「…………馬鹿な」
「バカかどうかは当人の問題でしょうね。ですが」
 にっこりと、今度は本当に優しい笑みを摩耶は浮かべた。
「美しいものは男女の別なく幸せになって欲しい、そう願うのは無責任な旅人の我が儘、というだけでなく、すべての世界において守られるべき夢ですよ」
「…………」
「美しい夢が、現世{現世:うつしよ}に叶いますように」
 絶句するアンジーの前でスカートをつまみ、深々と一礼すると、摩耶は悠然と踵を返し、去っていった。


※メモ
 アキラ、騎央、食堂で軽い食事。「定やん」の食べっぷりに喜ぶコック。
 そこへユヅルも来る。
 吸血鬼になった少年の覚悟の話。
 興味深く聞く騎央、素直に二人の絆は凄いねと褒める。
 照れるユヅル。
 遠くから見ている由紀、また神が降りてくる。

 図書室で「ゆんふぁ」は一心に本を読んでいた。
「お前、なにやってんだ?」
 ぬいぐるみが読書をしているような奇妙な光景を、たまたま開きっぱなしになっていたドアから見つけたアキラが声をかける。
 コートにサングラス姿のアシストロイドはプラカードを一枚掲げ、「これをおぼえてでーたかする」と答えた。
「なんでだ?」
 プラカードに書かれた答えは「おれのぼすであるとこのまなみがこーゆーのがだいすきで、ひじょーによろこぶからだ」。
「喜ぶのか?」
 ひょっとして世の女性すべてがこういうものが好きというわけではあるまい、と僅かな希望を乗せてアキラが尋ねると、「ゆんふぁ」はあっさりと「だいすきだ、ひじょーにだいすきだ。まいつきこのてのほんだけでさんまんぐらいはへいきでつかう」と、当の主が聞いたら思いっきりぶん殴られそうなことを平気で答える。
「お前な」
 ぽん、とアキラは「ゆんふぁ」の肩をたたいた。
 ため息をつく。
「主というか、家族のそういう秘密はおおっぴらに人前で言ったりするなよ? 大変なことになるから、な?」
 その言葉に「ゆんふぁ」はしばらく「?」と首をひねっていたが「そういうものか?」とプラカードに掲げ、アキラが「そうだ」と告げると納得したように頷いた。


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