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ロシア人の友達

 ロシアは連邦だ。形的には色々な共和国が集まった国ということになっている。
 ロシアの構成国家の中にはモンゴル系の人々の共和国がいくつかある。
 私が昔中国に留学していた時、1番仲が良かったのは、そのブリヤート共和国出身で、モスクワで医者をしているブリヤート人だった。
 ほとんどの留学生は大学生ばかり。なので社会人経験もある20代後半同士、割と話しやすい関係を作っていた。

 ブリヤート人はバイカル湖のほとりに住む民族で、宗教はチベット仏教だと言っていた.
 ブリヤートの彼女の顔はもう本当に、私たちが想像するモンゴル人の顔で、ロシア要素は全くなかった。本当にアジア人そのもの。
(ブリヤートでは、60%混血が進んでいるというが…)

 彼女は時折、ポツポツと家族の歴史の話をした。
 彼らの土地は痩せていたので農作物は育たず、牧畜で暮らしていたが、ある日国家からの命令で農業をしろと命じられたそうだ。
 親族はどう考えてもそんなことは無理だったが、抵抗するわけにもいかないので、開墾してそこで農業をすることになったが、あっという間に土地は痩せ果て牧草すら育たなくなり、少ししかない水は農業用水として使い果たし、飢えと渇きに苦しんだと言っていた。中国の大躍進政策で起きたことはわたしには分かると言っていた。

 テレビではいつも美しい金髪のロシア人ばかりが映るので、彼女のまだ中学生の幼い妹は、どうしてわたしの見た目はこうじゃないのと嘆き、髪の毛を金髪に染めてしまったと言っていた。
 でも金髪に染めてもアジア人の見た目が変わるわけはない。自分の見た目を否定しなければならない今がつらい、と彼女は言っていた。

 彼女はとてもクールでほとんど笑わないし、感情を表に出すことは少なかったが、知的でおもてなし精神があり、楽しいことが好きだった。
 物凄い年下のロシア族のカザフスタン人の彼氏を作っていて、なんだか人生を謳歌していて、楽しそうだった。
 彼氏も含めてよく食事をしたり、出かけたりした。
 言葉は完全には通じ合わなかったが、それでも居心地は悪くなかった。
 彼女はモスクワ地下鉄の美しさをよく語っていた。死ぬまでに一度見て欲しいと言ってたので、私もいつか見に行きたいと思っている。

 彼女とは帰国後連絡が途絶えてしまった。
 大概の留学仲間とは、Facebookで繋がっていたのだが、ロシアはFacebookが使用できない。
 スカイプなら使える!と言っていたが、正直スカイプでやり取りすることなんてない。
 相手の発信を見てたまにレスポンスをするくらいの感じが、会わない相手とのふさわしいコミュニケーションで、スカイプでガッツリ話すなんて難しかった。
 なので、今彼女が何をしてるのか皆目見当もつかない。

 ロシアでは、少数民族を中心に徴兵をおこなっているらしい。
 検索すると、中でもブリヤートに関する記事が多い。ブリヤートという文字をこんなネガティブな形で見るとは思わなかった。
 彼女の兄弟は無事なんだろうか。
 もう連絡も取ってない、もう何もわからない、それでも私は戦争が起こってる世界に住んでいるんだなあと思って、複雑な気持ちになるのである。

なお写真は彼女とその彼氏と別のロシア人の四人で遊びに行った時の写真でした。

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