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登山道の怪

親友Tと奥多摩のある山を登っていた時の話。
その年は七月だというのに今ほど暑くもなく、その日の天気は曇と霧雨という事でどちらかと言うと涼しい陽気だった。霧雨は登っている最中に降り出したことから中止にするほどでもなかった。
僅か700m前後の登山。僕とTは出会って20年記念と言う事での旅行であった。やはり山はいいなと僕らは話しながら歩いていた。野生動物の足跡を発見したり、次はどこへ行こうとかいろいろ話し合っていた時だった。そのとき僕らは、登山道沿いの開けた広場の様な所で水分補給をしていた。そんなとき登山道をお坊さんが降って来た。チリーンと鈴を鳴らしている。僕は会釈をするとお坊さんも小さく会釈で返して来た。
僕らは昼過ぎに頂上へ着いたのだが、その間の間に奇妙な出来事が起きた。登山道を登れども登れども着かないのだ。それどころか同じ道を何度も何度も回っている様な感覚さえあった。Tも僕もその場でヘバってしまい、もう一度ルートを確かめていた時だ。

チリーン...

頂上からお坊さんが降りて来た。ああ、別のお坊さんかな?そう思っていた。そして進む。
おかしい...やっぱり歩けど歩けど辿り着かない。決まり文句のように謎のお坊さんが通りかかる。絶対別人だと思いたかった。顔こそ見えないが、どう考えても同一人物としか言いようがなかった。というか何でTはこのお坊さんに反応を示さないんだろう。まあ通り過ぎて行くだけだから気にしてないのかな?と思って聞いてみた。

「さっきからお坊さんばっかだな」

すると?みたいな顔をしたTが

「お坊さん?...何言ってんだ?」

どうやら、この世のものではなかったようだ。Tがそう口にして以降、お坊さんに出くわすことはなかった。僕らも運良く?頂上へ辿り着くことができた。
たまに山へ行くと奇妙なことも起きるものである。

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