見出し画像

パチクリさん

パチクリさんの家...
そう呼ばれている空き家が地元にあった。最初にこれを話して来たのはOという同級生だった。なんでも、この空き家にはパチクリさんという謎の人物が住んでいると言う。彼は知的障害を患っている男性で片方の目が潰れ、残った片方の目は大きく見開かれているのだと言う。なんでも気に入った人間を見つけると執拗に尾行し、人気のない所を見計らって拉致して家に連れ帰って片方の目玉をくり抜くと言う怪異だそうだ。
とにかくOはこの怪談が好きだ。なぜなのか尋ねてみると実際に夜中、その家に入る女性を見たと言う。しばらくして呻き声のようなものを聞いたことからOはこの怪異に強い興味を持ったそうだ。じゃあ、それなら見に行こうとなった僕らはその日の夕暮れにその空き家へ赴いた。
その空き家は山の上にあり、辺りも家も整備されておらず木や草花が生え放題、家の外壁もひび割れや一部崩れているザ・空き家という感じだった。しかも辺な臭いまでしており僕らは息を呑んだ。とにかく誰が先に行く?という話になり、お決まりのお前がいけよ、お前が先だよなどの会話が繰り広げられた。そして言い出しっぺのOを先頭に僕らは中へ入るためドアに手をかけた。全員に薄寒いものと緊張が走った。そしてギイイイイとドアが凄い音を立てて開いた瞬間、背の高い謎の人物と遭遇した。全員が目が合ったのだろう。ぎゃあああああと大声をあげて僕らは逃げ帰ってしまった。
O以外は全員が僕の家のガレージに逃げ込んだ。そして全員が肩で息をしていたのが治り始め、僕らは一人一人が見たものを言った。

・背の高いやつがこっちを見てた
・ライト当たったとき片目がなかった
・女みたいに髪が長かった
・糞尿の臭いが凄かった
・スカートを履いてた

正直に言って訳が分からなかった。
翌日、Oがパチクリさんは本当にいたと一人で大騒ぎをしていた。冷やかすやつもいれば、興味津々で聞いてくるやつ、興味のないやつ等々...。結局あれがなんだったのか分からないまま幕を閉じる。後日、親友とその家を前を通ると大勢の野次馬と警察官がいた。事件かな?そう言いながら僕らはそこを通り過ぎ、数ヶ月後気づいてみれば空き家は取り壊され、現在でもそこは更地である。
4年前の12月だったか。たまたま建物調査と退去立会いの日取りが重なり僕は調査へ、同僚のMさんが立会いのために件のアパートへ着いた。僕は屋根から外壁、ドア、消火ボックス、階段、手すりという順で調査を進めた。しかし比較的新しいアパートだからか調査らしい調査はせずに終わった。Mさんに合流すると退去者が時間になっても来ないとMさんがぼやいていた。仕方がないので管理会社に連絡すると30分くらいで担当の社員が来た。その人も退去者と連絡が取れないと言う。社員さんが持ってきた合鍵で先に中へ入ることになった。部屋で大声を出したり、水浸しにしたりと迷惑行為のため強制退去となった女性とは聞いていたが、なかなかの荒れ果てた室内だった。しかも性癖に何かあるようで随分と歪な性玩具と使用済みらしいティッシュが散乱していた。Mさんと社員さんはよほど慣れていないのか嘔吐しかけていた。さすがの僕もこれを笑顔でやり過ごす気にはなれなかったが窓を開ける。そして室内に光が入った。足元にあるものが露わになり、とうとう社員さんがリバースしてしまった。無理もないのだが、誰が片付けんだよ?と嫌な顔になった。Gの卵やらゴミやら何やら...文字に起こすのも憚られるものが散乱していた。この仕事に就いて4年(当時)経つが人間怖いもので、慣れてしまうと気持ち悪いと思いつつも特に何も思わなくなる。そして同時に奥の方から嫌な臭いが漂ってきた。あー...としか僕は思えなかった。二人はすでに泣き顔になっていた。僕らは奥へ進み、とんでもないものが僕らを待ち構えていた。首吊り死体だった。後に分かることだが、家主の女性だった。首吊りで首が伸びて、長い髪がだらんと垂れて顔を隠しているが飛び出して目玉、伸び切った舌、漏れた排泄物、それに群がるウジとハエ...。こればかりは何度見ても慣れないが、僕は冷静に警察へ連絡した。そして部屋の外で待つ間、Oのことをなぜか思い出した。同時にあいつが言っていたパチクリさんを思い出した。

...いま考えるとパチクリさんの正体は自殺者だったんじゃないか?と思った。あのときはほんの数秒だったから分からなかったが。。確証はない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?