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月下美人屋敷狂⑩ エピローグ

「じゃあ静江は死なずに済んだんですか?」

善道探偵事務所に浅井先輩が、その後の報告へやって来ていた。先輩はソファーに座ってタバコを吸う。

「ああ。重傷だったが一命は取り留めて、今日から事情聴取が始まる。まあ彼女は極刑は免れんだろうな」

私はお茶をすすると先輩に

「でも先輩、彼女の行動は上記を逸してました。もしかすると精神鑑定の結果、刑法39条が適用する可能性も...」

すると浅井は

「それはない。今回、入院中に彼女の精神鑑定が行われた。あの女は何でもない。正常だったんだよ」

警察病院にて
静江はケラケラと捜査陣を嘲笑いながら「綺麗でしょ」と言う。その姿は狂人そのものであった。しかし浅井は一枚の診断結果を彼女に見せつけた。

“鑑定の結果、被疑者には精神異常は認められず”

それを見た静江は青ざめた表情になった。

「さて、こう言う事だそうだ。もう言い逃れはできんぞ?お前は狂人じゃないってはっきり認められたんだからな!」

静江は、笑うのを止め、俯きながらポツリポツリと自供を始めたという。
この事実に私も驚きを隠せなかった。つまり、あれは演技だった...そういうことになるのか。

「あ、先輩...あの子。中臣はるかさんはどうなるんですか...?」

私は今回一番の気掛かりだったことである。彼女は逆上して静江を刺してしまった。何かしらの罰があるのではないか...しかし、それはあれだけの酷い目にあった人間には酷い仕打ちではなかと思ってしまうのである。

「あの子は、無罪放免とはいかないが直ぐに社会復帰が可能だ。犯行...あのときも殺されそうになったときのショックで一時的な錯乱を起こしたと認められるだろう。それに彼女の証言で、あの屋敷の月下美人の鉢から次々と行方不明になった子供らの骨が見つかっている。短期の保護観察で済むだろうよ」

私は少しホッとした。あの少女がこれ以上の責苦に陥らないでくれて本当に良かった。
結局、この事件は月下美人の花言葉のように終わりを告げたのである。

「儚い夢」

もしも老人とその妻が原爆に遭わなければ、静江が母の死を目の当たりにしなければ、この事件は起きなかったのだろうか...?静江を私自身は哀れな狂人だと思っていた。だが、それは違かった。これは憶測であるが彼女は母親の死で大量の血を見た。その血に彼女は魅せられてしまったのかもしれない。 結局、たくさんの命を奪ってしまえば最後は自ら責任を負うことを...残りの人生を捨てるしかない。人を殺すというはそういうことなのかもしれない。

私は暗くなった外を見ながら

「殺された少女たちは、ずっと殺され続けて来たんだ。狂った死刑執行人の手で。それが、やっと終わったんだ」

浅井先輩が事務所を後にした。
それから数日後、あの屋敷が月下美人屋敷が放火に遭って焼失したと聞いた。

おわり

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