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朱の盆

前の会社の同僚Oの話。
今から13年前、故郷の新潟から東京へ上京するため彼は一人で新幹線に乗っていた。東京では上手くやっていけるだろうか...?そんな心配をしながらボーっと景色を眺めていると新幹線が突然停車した。アナウンスによると線路内に何者かが立ち入ったようであると言う。所謂、鉄ちゃんか何かが撮影のために入り込んだんだろうとOは思っていた。
しばらく寝ていたOが目を覚ますと、まだ新幹線は動いていないようであった。携帯の時計を見るとまだ10、15分くらいしか経っていなかった。

「随分寝た気がしたけど...まだこんなもんか」

そう呟いて再び寝ようとした。その時だった。窓の向こうの線路に奇妙な人影が見えた。辺りは真っ暗だが服の一部?と思われる部分が真っ赤だったのが分かった。てっきり駅員か何かだと思ったが妙なシルエットにOは一瞬身構えた。するとそいつは少しずつこちらへ歩いてきた。なんだ?と思ったOが見ていると段々とその人物のシルエットがはっきり見えてきた。首から下は細めのスーツ姿、片手に何かを握っている...それは刃物だった。おそらくは大きめの包丁か鉈だと気がついたOが思わず席を立ち上がろうとすると、首根っこを思い切り誰かに捕まれその場に押さえつけられた。そして目を窓の外へ向けると異様に頭の大きい顔と目が合った。皮膚は真っ赤、目は見開かれ、口は大きく裂けて牙のようなものが見えている。その場で凍りついたOが大声をあげようとすると声が出なかった。同時に耳元で

「声...あげんなや。殺しちまうぞ?バラバラにしてずた袋に入れて沈めちまうぞ...?」

という掠れた声が響いた。Oが静かに頷くと

「黙ってろや」

そのあと化け物は何事もなかったように去っていった。後ろ姿を見たとき確かに一本の角のようなものをOは目撃した。気がつくと新幹線は再び走り出しており、Oは夢だったのか?と思った。すると横の席に座っていた女性が

「あら、鼻血...大丈夫ですか?」

Oが手で拭うと確かに鼻血が出ていた。さらに窓を見ると鼻に殴られたような痕があった。Oは直感であのとき押さえつけられたからだ!と確信した。
その後、上京してしばらくしたときテレビで『ゲゲゲの鬼太郎』が放送されていた。懐かしくて見ていると一体の妖怪に目が釘付けになった。それが妖怪・朱の盆というやつだった。だいぶデフォルメされていたが、あのときのあいつは朱の盆だとOは今でも信じているそうだ。

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