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月下美人屋敷狂⑦

気がつくと母が血を吐いて倒れていた。私は頭から吐いた血を被って真っ赤になった。何が起きたのか分からなかった。そして、母は父が到着する直前に死んでしまった。お葬式のときお手伝いで来てくれた近所の人や同級生のお母さんらが口を揃えて言っていた。

「奥さん気の毒にね...確か広島で被曝してるだってね」

「え!?あの人、原爆に遭ってたの!?」

「嫌だわ...原爆症とかうつらないと良いけど」

後になって私は原爆というものを自分の手で調べてみた。しかし、それは自分のルーツを知ると同時に恐ろしい歴史の1ページを覗いてしまった。それからだ。私の中で何か...死というものに恐怖を抱くようになったのは...。
自分の顔は同級生や他の子に比べて美しい。そういう自信があった。それが誇りだった。だが、それは母の死で美しさを失う恐怖へと変わった。顔に蛆が湧いた...皮膚が剥がれた...消えない火傷の痕...全部幻覚だと認識していた。しかし私の心はそれらのもに恐怖した。ありもしないものが見え出して、取り乱し、恐怖した。いつの頃からか私は狂っていたのだろう。しかし冷静でいられるときはそうではなかった思う...。だが初めて子供を殺して、子宮や臓器を食した時、明らかに私の身体は良くなったように感じた。父から母が月下美人が好きで、月下美人の樹液には肌にとても良い成分があると聞いてから誘拐して殺した子供の肉片を養分として屋敷に月下美人に振りまいた。
自分が殺人鬼で狂っていることはよく分かっている。だけど私は美しくいたい。原爆症なんかで死にたくはないのだ。母が迎えたあの酷い死に様は私に永遠の恐怖を与えたのだ...。

私、探偵の月ヶ瀬は今まさに月下美人屋敷の中へと潜入していた。浅井先輩から老人の最後と動機、警察が踏み込むまでに証拠を掴んで欲しいと頼まれたからである。
しかし、まさか地上はすべて月下美人で埋め尽くされているとは...。何とも怪獣映画の主人公にでもなった気分だった。地下への入り口を偶然にも発見して今突き進んでいるわけだが、私自身も恐怖感を抱かずにはいられない状況だった。

「どちら様?」

若い女の声に驚いて、恐る恐る後ろを振り返った。そこには若い女はいなかった。いたのは、皺や無理な整形で顔が崩れた初老の女性だった。

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