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怪猫ババのデスドライブ

甥っ子2号とその飼い猫ババの話。
その日も2号はババの部屋へ呼ばれ穴から上半身のみを入れて下半身は廊下に突き出ていたそうだ。なぜかズボンがずり落ちてお尻が露わになっていたのだと言う。まったく何たる無様な格好なのか...。そして当のババは部屋でソファーに座りながらネズミのジャーキーを頬張っていた。テレビからはとあるカーアクションものの映画が流れていたと言う。

「ババちゃん、それ美味しいの?」

そういう2号の問いにババは

「美味いぜ?食うか?まあ人間が食ったらやられちまうけどな!」

ババはかっかっかっと笑いながら頬張り、2号はいささか気持ち悪いなと感じたと言う。
その頃、剥き出しの2号のお尻は、1号にキックされたり、母親に思い切り踏まれてとてつもない大きさに進化していたのだと言う。
映画が終わったのは深夜近くで、さすがの2号も寝ると言って穴から抜け出ようとするとババは

「おいチビ、ドライブに行くぞ」

そう言ってきたという。驚いた2号は嫌だと言おうとすると問答無用で顔面キックを浴びせられた。姉たちが寝静まっているのを確認したババと2号は、車のキーを取ってガレージへ向かった。道中、2号は

「ババちゃん...ライセンス持ってるの?」

それに対しニヤリと笑いながらババは

「教習は受けた。だが気がついたらメキシコの国境の壁にこんにちはしてんだ」

そしてそのまま教官と掴み合いの大喧嘩となり、国境の壁付近で殴り合いが続いたと言う。結果、ババの右ストレートが教官の顔面に直撃し、今に至るという。ちなみにその後、彼は独房に半年間入れられたと言う。
不安が残る中、魔のドライブがスタートした。2号はいつものように助手席乗り、ババは器用に棒を使い短い足の代わりにブレーキとアクセルを踏んでいたと言う。陽気な1960年台のロックを爆音で流しながらサンディエゴの街中を真夜中に激走する一匹と一人。そのままハイウェイへの入り口を見つけ侵入。しかし、ここで2号はここである疑問に気がついた。他の車が反対の方向へ走っている。そうババはなんと出口からハイウェイへ入ってしまったのだ。そして魔のドライブが次々とミッションを変えて加速していく。
器用に対向車を避けてルンルンのババ、泡吹いて気絶寸前の2号。まさに死ぬかと思ったと2号は後に語る。カーブはすべてドリフト、速度は300キロに到達しようとしている。途中3回横転したが一人と一匹は無傷で生還。車のダメージはえらい事だ。やがて夜明けがやって来て

「よし帰るぞ」

ババはようやく家路に向かって走り出した。ホッとした2号はいつの間にか寝てしまっていた。どれくらい寝たのか?
ガリッ‼︎
バキッバキッ‼︎
ゴリゴリゴリゴリ‼︎
音に気がつくと家の側の大木の前で車が止まっていた。なんとカーブを曲がりきれず、とうとう右側面を見事に大きな傷を入れてしまった。さすがに青い顔になった2号にババはタバコを吹かしながら

「いいか?ママがやったことにしろ。じゃないとお前は今日中に晒し首だ。分かったな?」

ママを怒らせるのも怖いが、晒し首なんてもっと怖いと思った2号は頷くしか出来なかった。
そして姉が仕事に行くためにガレージへ向かって数秒後にギャアアアアアア‼︎と奇声を上げる姿を見て2号は口を閉じた。当然、1号も2号もババも疑われる事はなかったが、姉は凄まじい剣幕で犯人探しをしていたという。そしてその時もババは自室でネズミのジャーキーと姉から盗んだワインを片手にゲラゲラ笑いながらテレビを見ていたという。

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