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追う男

中学時代の元担任F先生から聞いた話。
先生が北海道から上京して2年が経ったある日のこと。カズキさんという親友の女性が、イズミさんという後輩の相談に乗っていると聞いた。そんなカズキさんから先生も相談を受けた。

「後輩のイズミって子が変な相談をしてきてさ...。なんかどうも心霊系みたいなんだよね」

先生も、なんでそんな話をするのよ...と思ったが話を聞くことにした。
イズミさんという子は大学のある土地の地元の学生だったそうだ。彼女に異変が起こったのは中学生の頃。手足に紫色の字が出来ていたという。イズミさんはまったく覚えがなかったが両親や学校側はイジメを疑った。しかし、イズミさんにも周りの生徒さんたちにも心当たりはなかった。同時にその頃から彼女の身の回りで奇妙な男を見かけるようになった。ハンチングを被りスーツを着こなした丸眼鏡をかけた男だった。決まって暗がりや、物の隙間などからジッと彼女を見つめていた。イズミさんは直ぐに両親や友人に相談した。だが、なぜか他の人にはそれが見えなかった。祖父を除いては...。祖父はその男を見ると

「誰だったか...見覚えはある」

そして異変も徐々にエスカレートしていった。朝起きると顔面血塗れの日があった。鼻に激痛が走り、担ぎ込まれた。診断は鼻骨の骨折だった。明らかに誰かに殴られないと出来ないような怪我であった。病院側も事件を疑った。警察も当初は家族を疑ったが、誰の手にも殴った際の傷やイズミさんの必死の訴えで事件性なしと判断された。
ある日の明け方に足に激痛を覚えて起きると足の裏が血だらけになっていた事もあった。病院で診てもらうと足の裏をアイスピックまたは畳針のような物で刺された痕が無数にあったという。遂には手足の爪が全て剥がれていたこともあった。しかし、それらは全て寝て起きてから判明していた。だから少し油断していたという。
それは高校頃。始業式の最中に背中に激痛を覚えたイズミさんは保健室へ連れて行かれると、火で炙られたような火傷が出来ていた。これには両親ももはや人の仕業ではないと確信し、ある高名な寺の住職にお祓いを頼んだ。

「こりゃ...呪詛か?いや...生霊..そんなことはないか」

住職は、これは一人の男の呪詛ではないか?というのだ。しかし恨みとも違う何かを抱いているというのだ。その頃からイズミさんは奇妙な夢を見るようになった。

「さぁ吐け!言え!言わんか!!」

そう言われると顔を何度も殴りつけられた。

「仲間はどこだ!!」

水責めを受け

針で刺され、爪を剥がされ、また殴られる。
そんなときであった。祖父があることを思い出した。

「イズミが...こんな目に遭うのはもしかしたなら...姉さんが原因かもしれん」

太平戦争末期
イズミさんの祖父は、その時分に姉がいたという。姉は真面目に「お国のため」に工場で働く顔の裏で“ある地下活動”に協力していたという。それは当時では“非国民”、“思想犯”というレッテルを貼られ警察からも目を付けられる事を意味していた。ある日、姉は逮捕された。激しい拷問を受けても生きていたが、半年以上拘束され家に帰り着いたが傷がもとで死んでしまった。その頃から一人の男が家の周りを彷徨くようになった。それが“あの男”だったことを祖父は思い出した。
“あの男”がイズミさんに何かをしているとして、果たしてそれは呪詛と呼べるのか?おそらくイズミさんが受けている傷は、祖父の姉が実際に受けた拷問の傷なのだろう。男は死んだことに気づかないのか、死んでもなお思想犯を捕まえようとしているのか...結局今のいままで分からなかった。
先生らは、手に負えないと判断してお祓いに行く事をイズミさんに勧めた。しかしお祓いで大丈夫か?一度目の後も彼女は何度も大怪我を負わされている。つまりは祓えていない。先生らは不安はあったが彼女を送り出した。
時が過ぎて冬がそこまで来ていた時、先生はカズキさんからイズミさんが死んだ事を聞かされた。死因は不審死としか言いようがなかったとイズミさんの母は話してくれたのだという。酷い事に膣内に熱した鉄の棒か何かを無理矢理押し込められ子宮を破壊され、膣内は赤黒く火傷を負っていた。何度も焼けた棒で弄られたことで粘液が蒸発していたという。解剖を行った医師も検死に立ち会った者も目を背ける様な傷だったという。
幸いかどうかは分からないが、イズミさん以外にその男は見えていない様だったそうである。

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