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バルコニー

ミホさんという知り合いの女性から聞いた話。
彼女は数年前まで妻子ある人と不倫をしていたという。

「別れる一年くらい前かな。前に住んでたマンションのバルコニーで全裸の小学生くらいの女の子が見えて...」

まさかお隣の子供か?と思ったが、どうやら違うようだ。両隣とも子供は既に成人の男性だと聞いたそうである。そして目撃した日から度々、彼女は全裸の女児をバルコニーで見るようになった。一度声をかけようとして近寄ったときにふと消えてしまったので直ぐに幽霊なのでは...?と思ったという。それを不倫相手のケンジさんに話した所、彼は鼻で笑ってバカバカしいと一蹴した。
ある日、再び女児が出た。明るい時間だったため彼女は上から下までを見る事が出来た。顔は無表情で、髪の毛をツインテールにしており、よく見ると身体中が土でも付いたように汚れていた。しかし顔はどこかで見た事があるような気がした。気がつくとまたふと消えていた。ミホさんの心中に何かモヤモヤのようなものが芽生えたという。
そして年の暮れに親友のアツミさんが家へ訪ねて来た。アツミさんは家に入るなり

「土臭っ!」

と大声を出した。ドキッとしたミホさんは思い切ってアツミさんに女児の事を話してみた。するとアツミさんはタバコに火をつけて突然

「ミホ、あんた不倫してんでしょ?」

そう言われ隠しきれないと感じたミホさんは素直に白状した。霊感の強いアツミさんに嘘や隠し事は通じないからだった。そしてアツミさんはタバコを勢いよく吸い上げると携帯灰皿で揉み消して言った。

「相手の男、奥さんと子供殺してる可能性あるよ」

いきなりの爆弾発言に驚きを隠せないミホさん。なぜなのか聞くと

「まず家に入った時点で物凄い土臭かった。それに混じって腐敗臭もしてる。あと頭の中に◯◯山だと思うなぁ...自信ないけど。そこの映像が流れ込んでくるのよ。まあ...あとは」

そう言いかけるとアツミさんは窓の方をジッと見つめた。

「あんた子供って言ってたけど...たぶん後ろにいるの母親かな?物凄い形相でこっち見てるのよ」

ミホさんは恐ろしい気配を背中に感じ、振り向く事ができなくなった。アツミさんは仕方ない...と言った顔をして酒と塩を部屋の四隅に置き出した。その間もミホさんはアツミさんと会話ができるのにも関わらず身体が何かに押さえつけられたように動く事が出来なかったという。それに対してアツミさんは良いから良いからと言っていた。そして日付が変わる頃になると突然、身体が元に戻った。ハッとしたミホさんにアツミさんは

「あの奥さんね...あんたが旦那と別れるの望んでるって。じゃないと殺されちゃうってよ?」

ミホさんは途端に恐ろしくなり、アツミさんに泣きついてもう別れると言い夜通し泣いたと言う。
後日、ミホさんはアツミさん同行の元、ケンジさんに別れを切り出した。するとケンジさんは怒った様子もなく分かったと別れを承諾した。アツミさんがいたからか?人前だからか?ケンジさんは静かにその場を後にした。もしかしたら家族を殺して埋めている危険な人物。しかし確証はない。
近年、マンションを引き払ったミホさんがテレビを見ていたとき山中で母子と思われる白骨が発見されたニュースを見たと言う。彼女はケンジさんに関係しているのではないか?そればかり考えると言う。

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