星空パラドキシカル #5

「やあ、『反逆者』さん、初めましてですね。あなたとこうして出会える日を心待ちにしていましたよ」
少年が……「構文遣い」が私に話しかける。世界を形成し、変革する「構文遣い」が少年とは……さすがに驚いたな。
「僕の、いや『構文遣い』のことについてはどれくらいご存じなのでしょうか」
「そうだな、あんたの『物語』に沿ってこの世界が形成されていること。あんたが先代からその地位を受け継いだってこと。そしてその地位はいずれ誰かに譲渡しなければならないこと。あんたの書いた本当の『物語』はごく少数の人間しか知らされず、俺とモリソンが『物語』だと思っていたのは、あんたが作ったフェイクだったってこと、そのぐらいかな」
「概ねその認識で合っています。ただ最後の部分はちょっと違う。どちらが本物か偽物かなんて分類に意味はないんです」


どういうことだろう。私がクロノポリス体制の忠実な「守護者」である「物語」も、逆に体制の「反逆者」となる「物語」も、どちらも並立して存在するということなのか。とすると、相互に矛盾を引き起こすような気がするが……。「構文遣い」の力はそれすら乗り越えるものなのだろうか。
「分類に意味があるとしたら、『先か後か』です。ですが、このことを説明する前に、まず僕自身の性質について知っていただく必要がある。僕は『構文遣い』としては少し異例なのです」
「子供ってとことが?」私はすかさず茶々を入れる。
「違います」
はっきりと否定されてしまった。もしかしたらこのやり取りも、彼の「物語」においては必要な要素だったのだろうか。不意にそんな考えが頭をよぎり笑いそうになった。危ない、危ない。そんな私に構うことなく、彼は話を続ける。
「いや、部分的に関係していないとも言えないのですが、ともかく、僕は歴代の『構文遣い』と比べて、『構文遣い』としての力が徹底的に欠けているのです」
「力、具体的には自らが書いた『物語』を他者の助力なしに、つまり自動的に実現させる力、僕はこれを『構文力』と呼んでいるのですけど、僕にはこの力があまりないんです」
「そのせいでクロノポリスの皆さんには迷惑を掛けっぱなしで、特にあなたには随分と迷惑をかけたと思います」


「ちょっと待ってくれ」私は彼の言葉を遮る。
「あんたの話を受け入れるとしてだ、なぜ先代はそんな不完全な、『構文力』のない人間に対して『構文遣い』の地位を受け継がせようとしたんだ。そんなことをしたら混乱した事態を招くことなんて容易に想像がつくだろうに」
彼がふっと笑う。それはこれまでに見せたことがない自然な表情だった。
「そこが先代の、彼女の意地の悪いとことでしてね、きっと彼女は世界が混乱している様を見たかったのでしょう。『構文遣い』の地位を譲渡してもなお、世界の形成に関与し続けることを願う、とんだ強情さですよね」
「しかも先代は、歴代でも随一の『構文力』を持っていたんです。もちろん数回はクロノポリスの皆さんの力を借りたこともあったようですが、あくまで数回です。先代の書いた『物語』はほぼ自動的に実現しました。僕程度の人間が、彼女の筋書きに抗うことなんて不可能でした。それが、僕が今ここにいる理由なんです」

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