星空パラドキシカル #1

私の名前は■■■■■■■、いや、残念なことではあるが、本名よりも通り名の方が私に本質を表しているような気がするからそちらを紹介しておこう。私は「時間の反逆者」、この世界において絶対的な権力を有するクロノポリスに抗ったことから、そのように呼ばれるようになった。


かつては絵空事だと考えられていた時間跳躍。クロノポリスは、これを実現させる方法を発見し、実用化させることにより、この世界のパワーバランスを一気に崩壊させ、遂には絶対的な権力を握るまでに至った。


クロノポリスは、時間跳躍により政敵の過去に介入することで、彼らを失脚させ、自らの権力を増大させるアプローチを採用していたが、近年ではそれに飽き足らず、自らの望む世界を実現させるため、クロノポリスは予め「物語」を作成し、それに沿って世界が動くように、現在のみならず、過去、未来にも介入するアプローチを採るようになった。


さて、なぜ私は「時間の反逆者」なんてものに成り下がったのだろうか。単にクロノポリスに歯向かっているだけでは、「反逆者」呼ばわりはされない。なぜなら「物語」の作成段階で、クロノポリスの味方と敵は個人レベルで詳細に定められているからだ。クロノポリスの敵と規定された人間が、クロノポリスにいくら抗おうと、それは彼らの物語通りに沿った行動をしているに過ぎないわけだから、「敵」でありながら「敵」ではない、クロノポリスにとっては広義の味方と言ってもいい存在である。


私は、「物語」においてはクロノポリスの「味方」、しかも彼らの体制の忠実な守護者という位置付けであった。途中まではその役割通りの人生を送ったが、結果としてクロノポリスに抗うことになったために、つまり「物語」に沿わない行動を取り、彼らの望む時間の流れに反する行動を取ったために「時間の反逆者」呼ばわりされることになったのである。


なんと言っても、途中までは彼らの忠実な守護者の役割を担っていた関係から、私は、クロノポリス関係者の中でも一部にしか認められていない時間跳躍の方法も身に着けてはいた。クロノポリスから逃れた後、生活の糧やら逃亡資金やらを稼ぐ必要に迫られた私は、一般市民には珍しい時間跳躍の技術を用いて何らかの仕事をすることが出来ないかと考えた。


よく考えると、いやよく考えなくても、過去の記憶に囚われるがあまり、まるで夢遊病患者のように現在の日々を過ごしている人間は一定数いる。その種の人間が時間跳躍により、過去の大切な思い出に再度触れ合ったとき、どのような反応を示すのかが興味深くて、今でも続けているこの仕事を始めようと思ったのだ。


どこで噂を聞きつけてくるのやら、最近はひっきりなしに仕事が舞い込んでくる。今夜も仕事を済ませ、いくつかある隠れ家の一つにこうして無事に……

いや、訂正。決して「無事に」ではなかった。隠れ家のはずなのに、なぜかそこには見知った、しかもクロノポリス時代の知り合いがいたからだ……。

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