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一グラムの幸福

   <0>プロローグ

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 (1)詩織

 今日から高校三年生! 当たり前だけどいよいよこれで高校生活は残り一年足らずとな

った。

「なんだかあっという間だったな」

 鏡越しに自分の顔を見て、私はふと軽いため息をつく。そこにはいつもの私……。いつ

もと同じ背中の半ばまである自慢の髪。……そろそろ前髪切らなくちゃ。

「詩織! もう時間よ。いいかげん起きなさい」

「いっけなーい! そろそろコウが起きる時間だ」

 居間へ降りてあわただしく朝食を済ませた私は、いつものように玄関の下駄箱にかかる

大きな鏡でチェックをする。

 ――髪型、よし。

 ――お気に入りのセーラー服も、よし。

 玄関を出ると、コウがもう私の遥か先を歩いていた。

 私は小走りに駆け寄り「おはよう」と声をかけた。

 (2)コウ

 その朝珍しく俺はアラームが鳴る三十分前に眼が覚めた。

「さすがに二度寝はヤバイな」

 窓を開けて部屋中に新鮮な朝の空気を送る。初春の風はまだ肌に突き刺さるほどに冷た

いが、それがかえって心地よい。

 俺は思いっきり背伸びをし、朝の空気を十分に堪能する。

「まだ詩織は起きていないのか」

 正面に見える詩織の部屋はまだ明りがついていない。

「下に降りて顔でも洗ってメシでも食うか……」

 階段を降りると俺の顔をもの珍し気に母が覗き込む。

「――っす。なんだよ。人の顔ジロジロ見つめて」

「いや、いつもより早く起きてるもんだから」

「俺だってなあ……その気になれば早起きできるんだよ」

「あらそれじゃあ、いつもその気で遅刻してるのかしら?」

「っせーな! それより朝飯は?」

「もうとっくにできてますよ」

 母は洗濯物で一杯になった籠を持って、パタパタとスリッパをならし階段を上がる。

「……なあ、手伝おうか?」

「いいのよ。それよりとっとと朝ご飯食べて学校へ行く!」

「へいへい」

 俺は仕方なく朝食をすませ、玄関を出た。

「なんだよ。詩織のヤツ! いつもはバカみたいに早く起きてるくせに」

 五分ほど待った後俺は一人学校へ向かった。いつも隣でなにかと話し掛ける詩織がいな

いので今一つ物足りない。

 後から小走りに駆け寄る足音が耳に入る。

「やっと来たか……」

 やがて彼女は俺に駆け寄ると微笑みを浮べてこう言うだろう。

『おはよう』――と。


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