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舞台に立っていたわたし。

先日、劇場にお笑いライブを見に行った。若手からベテランまで、10組ほどの芸人さんたちが次々に出てきて、目の前で漫才を披露してくれる。いろんなタイプの笑いがテンポよく届けられ、あっという間の一時間半だった。2020年は、なかなか劇場やライブ会場に足を運ぶことができなかったので、とても楽しい時間を過ごすことができた。
漫才だけでなくライブ全体の構成にも工夫がされていることに気づく。若手とベテランのバランス、ネタの時間配分、休憩の挟み方……その全てが、観客を飽きさせないように考えられている。
やっぱり生は違う。

かつてはわたしも同じように舞台に立っていた。
わたしの舞台は、黒板の前だ。観客は子どもたち。元気な子、おとなしい子、勉強が好きな子、嫌いな子……様々な個性を持った彼らの前で、わたしは「授業 」という名の公演をしていた。

大学卒業後のわたしの最初の職業は、塾講師だった。たくさんの子どもたちの前で、授業を行う。学校の成績を上げるという目的は皆同じだけれど、授業に対するモチベーションが高い生徒ばかりではない。むしろ多くの子どもたちが、勉強をするのは嫌だと思っていただろう。親に言われて渋々通い始めた子だって少なくない。そんな生徒たちなので、学校と同じように授業をしたところで身に入るものではない。

さて、皆さんは「学校の先生 」と「塾の先生 」どちらが教えるのが上手だとお思いだろうか?

そりゃあ、学校の先生でしょ。だってプロだもん。

お言葉を返すようだが、授業の上手さ、教え方の上手さでは、教師よりも塾講師のほうが断然上である場合が多い。なぜなら、塾講師は「成績を上げる 」ことに特化しているからだ。学校では、いわゆる五教科の勉強以外にも様々な学びがある。しかし、塾は「成績をあげるための場所 」だ。塾講師は、生徒の成績を上げるために日夜授業の研究をし、研修を重ね、研鑽を積んでいる。

もちろん、学校の先生がそれらをしていないというつもりはない。けれど、学校の先生以上に塾講師は「教え方 」を学んでいるのだ。

では、具体的にどのようなことを学んでいるのか?

わかりやすい解法はもちろんだが、それ以上に「魅せ方 」を学んでいる。「魅せ方 」とはつまり、生徒に自分の方を向かせる方法だ。それは、授業の構成であったり、声であったり、動きであったりするだろう。

授業を作ることは、舞台を作ることに似ている。

観客である生徒たちを飽きさせない工夫を随所に散りばめる。例えばそれは、雑談だったり、やる気を湧き出させるような話だったりするかもしれない。テンポよく変わる展開や大事なポイントで声が大きくなったり、時には黒板を叩くような効果音を使うことだってあるかもしれない。観客=生徒をイジることもあるけれど、若手では難しいのも芸人さんの舞台と同じだろう。

そして何より、授業の構成を練り、練習を重ねて本番を迎える。

授業は一発勝負だと思うかもしれない。けれど、その一発勝負のために、どのように説明するのが一番わかりやすいか考え、流れを練習して本番に臨むのだ。それは、舞台の本番に臨むと大きな違いはないだろう。

ここまできて気付いた人もいるかもしれない。

これは何も塾講師の授業にだけ言えることではない。
誰かに何を伝えようとするときには、誰しもに必要なことなのだ。

何か伝えたいことがあるとき。
何も考えずに、思いつくままに伝えたときと、筋道立てて考え伝えたときでは、どちらがより多く、正しく情報を伝えることができるだろうか。

どう考えても、明らかに後者だろう。

さらに、伝えるときには独りよがりにならないように注意をしなければいけない。自分では10伝えたと思っていても、相手が3しか理解していなければ、あなたは3しか伝えることができていないのだ。相手にきちんと正しく伝わっているか、相手の反応を観察しながら、理解していないようなら手を変え品を変え言葉を変えて、伝えていく必要がある。

こんなふうに書くと、伝えることの難しさに諦めてしまう人が出てくるかもしれない。けれど、諦める必要はない。回数を重ねるごとに上手く伝えることができるようになる。言い回しや表現の仕方など、どうすればより伝わりやすくなるのかが少しずつわかってくるだろう。

何度も繰り返すことで上達するというのも、舞台と似ているかもしれない。回数をこなして、慣れてしまうのが一番だ。慣れて余裕が生まれると、相手にもその余裕が伝わりリラックスして聞いてもらえる。逆に、カチカチに緊張しているとそれを感じて相手の反応も硬いものになりがちだ。

誰かに何かを伝えるとき。
熱い思いを語ることも大切だが、どう言えば相手に伝わるかを考えながら伝えてみるといいかもしれない。そうすることで、あなたの思いをきっとこれまで以上に相手に伝えることができるようになるだろう。そのときは、あなたもあなただけの舞台に立っているに違いない。

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