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無音を愛する私の唯一好きな音楽は

当時小学6年生だった。


楽器が苦手で音楽の授業を呪っていた。
幼稚園の頃からピアニカはエアーで、リコーダーは穴のあいた硬いチクワ程度にしか思っていない。


歌にも興味が湧かずCDを買ったこともない。
ある日、漫画でも買おうかねと、今はあまり見かけなくなったCDやゲームや本を置いている駅前の個人営業のお店に行った。


たまたま店内で流れていた音楽を聞いて脳がひっくり返る思いがした。
これは幼稚園の年長さんの頃に、先生から『紫』と言う色を紹介してもらったとき以来の衝撃だと思った。

男性の怠そうな歌声とメロディーに驚き、この曲の正体を突き止めようととりあえず店内をキョロキョロすると、カウンターの所で今は亡き8cmのCDと手作りのポップに『いま流れているのはコレです!』と書いてあった。


曲名は漢字2文字だった。良かった読める。
バンド名を覚えると言う脳は無くて曲名だけ覚えて帰宅した。


帰宅して姉に聞いたら、いま売れている曲で有名な日本人のロックバンドらしい。

自分のものなんか買ったことがなかったが、初めてアルバムを買った。
約3000円。
小学生にしたら大金である。


そして、ライブというものがあって、ライブには本人が来ていて実際に演奏するらしい。
本当だろうか?本人が?


その時以来ずっと好きで
CDは全部揃えて
いつかライブに行きたくて


高校生になってバイトが見つかり今度のライブは行こう、そう思っていた矢先だった。

活動休止、その後再開せず解散。

彼らの曲以外に好きな曲なんかなかった。
相変わらず音楽の授業は苦手で歌うのも苦手で、私と音楽はそれ以降没交渉。
暗転。


会社員になり先輩営業のミスを肩代わりして被ってお客様に謝罪してこいと言われて社会に恨みを持って退職したと同時に父の介護が始まった。
彼氏になる男性は軒並み問題がありその問題に巻き込まれる。
そして私の体には病気が見つかった。


ラブソングは悲しかったり嬉しかったりで平和だ。
応援ソングは聞くだけで疲れる。


そんな時に決まって必ず聞く彼らの曲がある。
『笑いながら死ぬことなんて僕にはできないから』

このフレーズが聞きたくて何回も繰り返す。
別に聞いたからって元気になったりしない。
病気に立ち向かおうなんて思わない。
明日から頑張ろうなんて思いはしない。
無理する必要も頑張る必要もないのだとそう思えるから何回も聞く。


よく諦めず生きているなと今でも思う。
じわじわと長く解決できない問題が続き、この先に何も楽しいことなど無いと思った。
乗り越える気なんかとっくに無いのに、周りに迷惑を掛けられない一心で乗り切る。


そして乗り切った先に待っていた。


THE YELLOW MONKEY再結成


メンバーはだいたい50歳周辺。
ずいぶん時間が経ったのに彼らは太りもハゲもせず、そして何よりもかっこいい曲を掲げて再結成をした。


そして社会人になっていた私は、迷うことなく一番良いチケットを申し込む。
何年も前に諦めた。
何年も好きな音楽がなかった。

私のことなんか誰も知らない。
だけどこれは人生のご褒美だ。

THE YELLOW MONKEYのライブに行けるんだ、あの時に死ななくて良かった。


ステージの上には、メンバーがいた。
『ライブって、メンバーが本当に演奏したり歌うんだよ』
姉が言っていたことは本当だった。


あの時、お店で流れていた楽園も目の前で聞けた。『猫もつれていこう。好きにやれば良い』


なかなか好きにはやれないけど、でもきっとTHE YELLOW MONKEYの歌詞にある、脱力した雰囲気、人に頑張りを押し付けない雰囲気、それが体に染み込んでいたお陰で私は乗り切れてきたのだ。


私のための再結成でも私のための曲でもないけど図々しくもありがとうと言う言葉が出てくる。


悪い大人も見ちゃった
人が変わっていった
お釈迦様の手のひら
逃げ切れた人はいない
間違った出会いと正しかった出会い
傷ついてばかりのあの日の君はヒーロー
でもDANDAN
そうねDANDAN
形だって変わる
どんな夢も叶えるあなたに会えたよ
どんな痛みにも耐えるあなたに会えたよ


再結成からすぐに私は救世主に遭遇し、幸運なことにその人と結婚できた。
THE YELLOW MONKEYを知らなかった夫は今や私よりたくさんTHE YELLOW MONKEYの曲を歌える。
同じ曲の同じ箇所で一緒に『かっこいい〜』と言える。


命はいつか絶えるだろう
だけど最高の出会いが


積極的に生きることも死ぬこともない人生だけどTHE YELLOW MONKEYのライブにはこれからも夫と共に行く。
THE YELLOW MONKEYがこの先、音楽を続けてくれたら幸い、無理せず活動を控えても納得。
これからも応援しています。




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