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実録・鉄道トラブル(その11)ABBが入らない。(2007年9月27日の日記)

今朝(9/27)敦賀の中部5番線(227M:475系6両)から直江津方の運転席でABBが入らないと無線連絡を受けた。
米原方ではちゃんと入るが、エンド交換して逆転機を倒すと全切となるという症状。
最初は頭が働いていなかったせいで、マスコンヒューズの確認を指示してしまったが、逆転機倒して切れるんだからそんなわきゃない。
ちょっと冷静になって、ABBのヒューズの確認を指示。
異状なし。
ABBHRの動作音がするか確認すると、動作していないようだとのことなので、HR本体の状態を確認すると、下の接点がくっついている。
カバーを外して上を押すように指示。
するとABBが入った。
その状態で交直切換試験を行うとちゃんと切換ることを確認。
めでたく出区できました。
一応ホーム上で再度交直切換試験と通電試験を行って敦賀6分延で出ました。
まぁ、連絡が入ったのが出区の7,8分前だったのでこれで上出来でしょう。
227Mは金沢で前3両が入区なので特に後の運用変更も必要なかった。


*解説

VCB(ABB):
Vacuum Circuit Breaker(Air Blast Breaker)の略
交流電化区間を走る電気車(電車・電気機関車・新幹線電車)に設けられている機器で、架線からの電気を車両に取り入れるためのしゃ断器。
特高圧回路に事故が発生した場合、自動しゃ断して車両を保護するなどの役割を持っている。

475系のABB

交直流電車にはABB又はVCBと言う機器が付いています。
これは架線からの電気を車両に取り込むスイッチでしゃ断器の機能を持っています。
直流電車には付いていません。
新幹線電車には付いています。

ABBやVCBは交流2万ボルトの回路に異常があった時に自動しゃ断して、車両を保護する役目を持っています。

しゃ断器が動作すると高電圧の場合、アークを引いて非常に危険なのですが、交流は電圧が正弦波状に変化するので1サイクルに2回、必ず0Vの時が来ます。
しゃ断動作はその0Vの瞬間が存在するから可能になります。
直流は常に電圧がかかっているので、ABBやVCBではしゃ断することができません。

*しゃ断する時のアークはいくら交流でも何もしないと接点が溶けてしまいますが、VCBでは真空中で接点を切り離すことで、ABBは接点を切り離す時に圧縮空気を吹き付けてアークを飛ばすことで安全にしゃ断します。

このスイッチが入らない事には電車は走れないのですが、
今回の故障はABBが入るけど、運転台を変更すると切れてしまうと言う故障です。

詳しく書くと非常に専門的になってしまうので簡単に書きますが、ABBは運転士が乗務している運転台でのみ制御できる必要があります。
それを、制御しているのがABBHRと呼ばれる継電器です。
今回の事象は結果的にひとつの運転台でABBHRを「入」にすることができなかったと言う事象です。

日記文中の「逆転器を倒すと全切となる」と言うのは、新運転台の逆転器を倒すことで、これまで「入」となっていた他の運転台のABBHRを「切」とする回路が構成されると言う事です。

反対側の運転台では入る事から、ABB自体や保護機器に異常が無い事は明白です。問題はこれから運転しようとする運転台でABBHRが「入」にならない事であることが分かりました。

ABBHRは運転台の見えるところに設置されていて、動作する時には結構大きな音が出ます。
なので、動作音が聞こえるかを確認しています。
さらに、手で接点を押すことで「入」「切」することができるので、運転士に手動で「入」にするように指示してみたところ、それでABBが入りました。

ABBは入ることも重要ですが、それよりも切るべき時に確実に切ることができる事の方が重要です。
それを交直切換試験で確認しています。

これが正常に行えれば、以後の運転にほとんど支障はありません。

と言う事で、結構面倒な故障でしたが6分遅れで運転できたことは指令員としては満足の行く結果でした。

ここまで書いて、書いた自分が言うのもなんですが、読んで意味の分かる人は交直流電車か新幹線の運転士または車両技術係くらいのものだと思いました。

交直流電車の運転士は学科講習で車両について210時間勉強しますが、ABB・VCB制御回路にはその内の30時間程度を費やします。
それを、概略とは言え一つのブログで理解できるわけがないですね。

難しい事を書くのがこのブログなので勘弁してください。

*文中のABB、VCBはそれぞれどちらとして読み取っても完全一致ではありませんが、ほぼ共通しています。

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