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世界を巡る原動力

高校生のとき、世界を自転車で回った人が講演に来た。その人が語る旅の話は情緒的で、物語の中ではない現実にもこんなことがあるのか!と衝撃を受けた。
以来、いつかやりたいことリストに世界一周が加わった。
それはあくまでも「いつか」であって、「今」「いちばん」やりたいことではなかった。

大学4回生の冬、初めて一人で海外に行った。10日間だけネパールを旅して知ったのは、高校生のときに講演で聞いたのと同じ物語のような目まぐるしい時間が本当に存在しているということだった。

そのときネパールで見つけた紙の彩りを、わたしは忘れられない。
紙よりも他にもっと、学んで役に立つことや仕事になることがあると頭では分かっているのだけど、ネパールで出会った紙の手触りやノートの作り、封筒の綴じ方以上に好奇心を刺激するものはなかった。

社会人2年目の夏、仕事を辞めて世界一周を始めると決めた。
ネパールに行ってから一度も海外旅行をしていなかったのに、「なんとなく行くなら次の2月からかな」と思った翌週には、特に悩んだり誰かに相談したりすることもなく辞表を出していた。

「いつかやりたいこと」は、
「半年後から始めること」に変わった。


世界一周を始めて225日目の昨日、3年ぶりにネパールに来た。
カトマンズのトリブバン空港は相変わらず国際空港とは思えないほど簡素だ。

空港の出口で、3年前に攫われるように乗せられたタクシーの中で怖くて泣いたことを思い出した。
今は、プリペイドタクシーのチケットをちゃんと買って運転手の方と英語で談笑できるようになった。空港から宿に向かう10分の間で彼の友人の紙職人の方を紹介してもらえて、「成長したなぁ」と笑ってしまった。

もう一つ、成長したなと思ったこと。
前回の訪問で紙工房まで辿り着けなかったことをずっと不甲斐なく思っていたのだけど、3年越しにようやく訪ねることができた。
バスを乗り継ぎ山を登った先にある工房で、紙が作られる様子を眺めながら「勇気を出して踏み出した分だけちゃんと進めている」とうれしくなった。


ネパールの山の上で、タイの郊外で、メキシコの山の中で、ラトビアの農家で、世界の各地で、もちろん日本でも。
今も、植物の繊維から紙が作られている。
人の手で一枚いちまい漉かれている。

世界を巡る原動力は、ここにある。
紙が作られる光景を見るたび、脈々と続いてきた伝統が今まさに新しく作り出されていることを感じる。

きっと続ければ続けるほど、価値や意味は濃くなっていく。
今の小さな一歩を肯定するには、過去の一歩が今に繋がる瞬間をちゃんと味わうこと。そうすることで、わたしの時間の中で原動力は回り続ける
今回の旅を通して、確信を持てた。

そしてこれからは、誰かの時間と接合して「手仕事の紙がある風景」を続けていけるように、一つひとつ具体化する。

今日も良い日でありますように。

2019.11.01

こんにちは、kami/(かみひとえ)です。いただいたサポートは、「世界の紙を巡る旅」をまとめた本の出版費用に充てさせていただきます。今年の12月に発売できる…はず…!