弁護士発の保証料ビジネスについての検討 その1

最近Twitterを眺めていると、「小さな一歩」や「アテラ」など、個人が持っている債権を「保証料」を対価として前払いするビジネスが設立されています。いずれも弁護士がその設立に関与しており、ビジネスの内容に非常興味を持ったため、個人的に両者のビジネスについて検討してみました。

「小さな一歩」のケース

養育費月額10万円の事例で未払いが発生、依頼者が年払いを請求した場合
まず、依頼者に調停証書や公正証書などの書面が存在していないケースを想定してみます。
この場合はおそらくビジネスとして成立させることは難しいでしょう。
強制的に養育費を回収するには、新たに公正証書の作成や訴訟提起をしなければならず、書面がある場合に比べて弁護士報酬も高額になってきます。保証会社は、書面が存在していないケースでも同額の保証料を設定しているため、高額の養育費を受け取れる場合でないと保証会社がペイしない可能性が高いです。また、サービスの利用に依頼者の持ち出しは一切ないことを謳っているため、保証会社は保証料の中から公正証書作成などの法律サービスを弁護士に依頼することになります。これは、報酬を得る目的で事件を斡旋する行為として、弁護士法72条に違反する可能性が高いです。したがって、調停証書や公正証書などの書面が存在していないケースを取り扱うことは事実上困難と思います。

次に、依頼者に調停証書や公正証書などの書面が存在しているケースを想定してみます。
この場合もおそらくビジネスとして成立させることは難しいでしょう。
保証会社は保証料25%(上記の例でいうと30万円)と引き換えに、養育費の年額120万円を代位弁済することになります(保証料と相殺して90万円の支払い)。そして、保証会社は、配偶者に対し、求償権を行使して養育費を回収していくことになります。この場合、保証会社が直接あるいは弁護士に依頼して養育費を回収していくことになるため、弁護士法72条違反のリスクは回避できますが、新たな問題が出てきます。

弁護士法73条
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

弁護士法73条は,他人から債権の譲渡を受けて,その取立てをすることを業とすることを禁止する条文で、このような行為,特別の許可を受けた債権回収会社以外は行うことができません。そのため、保証会社が依頼者に代わって配偶者に求償権を行使することは、弁護士法73条に違反するリスクが高いでしょう。
なお、保証会社が代位弁済した後においても、弁護士が依頼者本人の代理人として養育費を回収する場合は、書面がないケースと同様に、保証料の中から弁護士費用が支払われるため、弁護士法72条に違反する可能性が高いです。

ビジネスの抱えるリスク

以上のとおり、「小さな一歩」のビジネスモデルは弁護士法72条、73条に違反するリスクを抱えています。そのため、そもそも協力する弁護士がいるのかという問題もあります。

また、仮にビジネス化できたとしても、保証会社にとっても、弁護士にとっても利益の低いビジネスモデルになるため薄利多売型のビジネスとなることが予想されます。

さらに、アテラの残業代請求と比べると、未払いの相手方の場合、配偶者が無資力や所在不明で回収できないリスクもあるので、保証会社は前払いすることで債権回収ができないリスクを抱えることになります。

依頼者のニーズ

もっとも、未払いの養育費を確実に前払いしてもらえるというサービスは、一定の依頼者のニーズがあることは確かです。同サービスが今後うまくいくかを見守りつつ、私自身も依頼者にとっても、弁護士にとってもメリットがあり、かつ適法なビジネスモデルを模索していきたいと思っています。

その2では、「アテラ」のビジネスモデルについて検討していきたいと思います。

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