本当にあった怖い話
これは、数年前のある夜に我が家で本当にあった話である。
その日、私は夫と居間でテレビを見ていたのだが、突然身体に妙な疲れを感じ、先に休ませてもらうことにした。
寝室と居間は襖一枚を隔てた隣同士。
ベッドに入ってもテレビの音や夫が時折笑っている声が聞こえていた。
横になってからそれほど時間は経っていなかったように思う。
突然お腹のあたりに何かが乗っかってきたような重さを感じた。
最初は夫がふざけているかと思い無視していたのだが、それが次第に胸の方に上がってくる。
その時ふと気づいた。
違う。
夫じゃない。
隣からは相変わらずテレビの音とそれを見ながら笑っている夫の笑い声が聞こえていた。
じゃあコイツは誰だ?
私が目を開けてそれを確認するのと、それが私の首に手をかけるのがほぼ同時だった。
そこには金髪の若い男の顔があった。
いかにもEXILEにいそうな、ダンスが上手そうな男であったが見覚えはない。
自分の身に起こっている事態を把握する間もなく、私の首にかかった男の手に力が入り始めた。
これ以上絞められたら完全に声が出せなくなるというすんでのところで私は隣室にいる夫に助けを求めた。
「たすけて…」
もうほとんど声にはならなかった。
男の手にはどんどん力が入っていく。
このまま死ぬのかと諦めかけた次の瞬間、身体に乗っていた重さがすっと無くなり、その男が消えた。
助かった…
夢だったのだろうか。
それにしては夢と現実の境目が無い。
普通怖い夢を見て、ハッとして起き「夢か…」となる時は、夢と現実の間に意識の非連続というか、次元のスイッチングというか、どこかポンと飛ぶ感覚があるものだが、この時はそれが全くなかった。
男が私の首を絞めていた世界と、それがすっと消えた世界と、助かったと胸を撫で下ろしている世界は明らかに同じだったのだ。
私は居間に行き、たった今自分の身に起こった不思議な出来事を夫に話した。
すると夫はこう言った。
「そういえば、なんか『たすけて』って聞こえたよ」
………
以上が、数年前のある夜に我が家で本当にあった話である。
そして、この体験で私が一番怖いと思ったのは、隣室から助けを呼ぶ声が聞こえていたにもかかわらず、何のアクションも起こさなかった我が夫である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?