8月3日(木)
あまりの暑さに目が覚めた。窓が閉め切ってあって、サーキュレーターも動いてない。喉の渇きが尋常じゃないけど、それ以上に頭がクラクラする。ベッドの上で身体を起こして、エンジンがかかるのをボーッと待ってみても、仄かな気持ち悪さが胸の辺りに延々と居座っているだけで、状況は何も変わらない。
とりあえず、枕元のリモコンに手を伸ばし、サーキュレーターの電源を入れる。首振り機能で、生温い風が通り過ぎては戻ってくる。何度か風を浴びているうちに、多少は頭がハッキリしてくる。
家の中が随分と静かだ。耳を澄ましても、サーキュレーターが首を振るたびに奏でるカタカタという音しか聞こえてこない。窓の外はすっかり明るく、陽も十分な高さに登っているらしい。ベッドに座ったまま、机の上の時計に手を伸ばした。午前10時過ぎ。父も兄も、朝の家事を終えた母も、流石に出かけている時間。
バイトも休み、映画撮影も私のチームは休み。それで昨夜、飲み過ぎたんだっけ。晃兄は仕事があるからって、お酒は一滴も飲まずに先に帰って、沙綾さんは一兄が連れて帰って、碧さんと哲朗さんの部屋で飲んで、それからーー。
それからの記憶が微塵もないけど、出かけた時と同じ服のまま寝てたんだから、どうにかして帰ってきて、ベッドまでは辿り着いたのか。ベッドの横に放り出してあったカバンをザッと確かめると、忘れ物も落とし物もないらしい。財布も鍵も入ってる。
とりあえず、水分補給とシャワーを浴びよう。充電していたスマホを取って、慎重に階段を降りる。リビングに入って、冷蔵庫を開けた。「天然水」のラベルがついた500mlのペットボトルと、ウコン的なドリンク剤が入ったビニール袋が、中身も出さずに突っ込んであった。両方取り出すと、底の方に流麗な文字で書かれたメモが出てきた。
「明後日もよろしく」と書かれた字を見るに、どうやら碧さんのメモらしい。何があったか全く思い出せないままグループLINEを立ち上げると「瑞希さんは無事に送り届けました」と碧さんのメッセージが残っていた。彼女はそれから電車で帰宅したらしい。
彼女の心遣いと思うと素直に受け取り辛いけど、この気持ち悪さは早めに何とかしたい。先にビンの方をグッと飲み干し、口の中に残った後味を流し込む感覚で、ペットボトルの水で濯いだ。
何となく小腹も空いた気がするけど、炊飯器を開けてみてもご飯は残っていない。冷凍庫を開けても食パンは切れているらしい。シャワーを浴びてから冷蔵庫のご飯をチンして食べるか、とか考えてたら、スマホの画面に通知が出た。碧さんから、画像が送られてきたらしい。
ーースッピンの寝顔も可愛いね。
メイクも落とさないで寝ずに済んだのは良かったけど、彼女にそんな写真を撮られたのはまずかった。調子に乗って飲まされすぎだよ、私。
返事を考えている間に、リマインダーから通知が届く。1時間後に、哲朗さんと共に「イオンモールで買い出し」の予定になっている。そういえば、そうだった。とりあえず寝汗を流して、出かける準備をしなくては。碧さん対策は、動きながら考える!
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