見出し画像

やったよ『Voice of Cards ドラゴンの島』(記録 2021/11/02)

裏ボスまで倒した。プレイ時間10hくらいかな。

ネタバレのないざっくりとした感想として、常に及第点以上に面白いんだけど、とにかく4000円のボリュームかあ!? というところに尽きるコスパの悪いゲーム。

「デジタルで遊べるTRPG」を期待しているなら絶対やめた方がいいし、RPGとしても……私みたいなRPGマゾじゃないならおいしいもの食べに行った方がいいかも。4000円払ってでも面白いRPGを遊びたいマゾなら買っていいんじゃない? 楽しいのは間違いないから。

以下細かいところに突っ込んでいくので少しクッションを置く。




言ったからな。




「カードとTRPGをモチーフにしたデジタルRPG」という最大の特徴は正直に言ってうまく機能しているとは思えなかった。

カードをUIの根幹に置くことで「あらゆるオブジェクトが縦長の1sqで管理される」プレイ感の良さがあり、そこは素直に評価できる。

戦闘中、イベント中、メニュー画面、あらゆる場面でキャラクターの同一カードが流用されるUIは確かに見やすく遊びやすいが、「カードを用いるTRPG」のフレーバー的にはかなり淡白。

カードは結局「sqの代替」くらいのオブジェクトでしかなく、飛んだり跳ねたり分身したりと表現法がデジタルRPGの範疇から抜けきれていない。カードらしさといえば途中でカードが破れる演出があるくらいのもので、「カードを操ってTRPGを遊んでいる」感じがあまり味わえなかった(ここ頻出ワードだからメモしておくように)。

特に「机が延々と下に伸び、スタッフ名の書かれたカードが散らされている」スタッフロールが「机上でカードを広げて遊んでいる」フレーバーとの乖離著しく感じた。

カードを1枚1枚めくっていくとスタッフの名前が書いてあるとか、逆に「遊んだ後の後片付け」をモチーフにしたスタッフロールにするとか、いくらでもいじりようがあるのに、いわゆる「スタッフロール」のテンプレートに囚われたお約束的な表現に留まっているのはかなり残念に思えた。スタッフロールなんて一番フレーバー全振りでいいところなのにな。

「本作はTRPGをデジタルに落とし込んだゲームであり、ゲームマスターとの対面で遊んでいる」という名目のフレーバーもいまいち機能していない。

TRPGといえば「ただゲームを遊んでいるだけでは味わえない、他PCやGMとの対話」も大きな魅力だが、本作においてゲームの範疇を超えてGMが口を挟んでくる場面は最序盤の導入とラストのカーテンコールを除けば強敵戦前の「ここで準備した方がいいかも……」程度しかない。

プレイしている側としては世界樹の「したまえ!」さんにCVがついたなあ、程度の印象しか持てなかった。

声優の演技の方針も(上手い下手とは違うベクトルという前提で)「常に淡々と、感情を抑えて」の方面に特化しており、自分で作ったシナリオならもう少し熱を入れて遊ばないか? と思ってしまう。

GMである彼がこのゲームにおいて「単なる舞台装置の語り部」なのか「悲痛なシナリオを作って我々に突きつける諸悪の根源」なのか「一緒にTRPGを遊んでくれる友達」なのか、どこに腰を置くにも中途半端にしか思えない。

総じて「GMを通じたゲームという唯一無二の持ち味があるのに、GMのキャラがとてつもなく薄い」のが本当にもったいなく思えた。

「ナレーターが人格を持っており、彼が用意した盤面との勝負という側面も持っている」ゲームとしては『The Stanley Parable』『ICEY』といった無敵の先達がいるのでそこと真っ向勝負させるのはかわいそうだが、ここまで徹底的に勝負を避ける必要はあったか?

フレーバー面に関しては総じて「そういうフレーバー」以上の意味を持てず、結局「ちょっと変なRPG」の枠を出られなかったのは残念。

褒める点ももちろんあり、フレーバーの一階層下の「RPGとしてのシナリオ」はかなり面白かった。

スジだけ上げれば「いーもんっぽい教団がクソ野郎で、世界の敵のドラゴンは実は被害者だった」と正直ありきたりなのだが、「ありきたり」までコマを進める手腕が丁寧かつ見事だった。

「RPGのお約束」をいじるゲームは数あれど、ここまで「やくそう」「ポーション」に特化したゲームはそうそうない。

「教団による人体実験」「ヨコオタロウ名物頭のおかしいキャラクターども」「ドラゴンが生み出す既得権益」「最後の巨大な選択」と要素要素は他のシナリオでもできなくはないなと言えなくもないものだが、これら全てのエレメントを「突き詰めるとやくそうの話」で綺麗にまとめているのは本当に面白かった。

批判されそうな点として真エンドがかなりのご都合主義(なんならイヤボーン半歩手前)なのだが、私はご都合主義エンド大好きだからいいと思ったよ別に。頑張った人は報われるべきだよ。

キャラクターも非常に魅力的であり、暴力女やクソバカの女や筋肉バカなど昭和か!? ってくらいコテコテのPTが起こす珍道中を一番使えないバカの主人公が「使えないバカども」と批判しつつも、なんやかんやと上手く苦難を乗り越えていく様は往年のやる夫スレっぽくて私は大好き。

特にリディがいいんだよな。あまりに役に立たない古代の文献を持ち歩いて「こう書いてあったもん!」だけでめっぽう的外れなことをやらかすクソバカなんだけど、文献を取り出すかどうかは完全に気分で決めていて、文献が絡まないと(クソバカだけど)まあまあ観察力があって頼りになるのでそこまでヘイトが溜まらない。

この手の書物キャラで基本スペックが「アグレッシブな野生児」なの珍しいよな。「変な書物にハマりそうなのは田舎モン」というバリバリの偏見を感じられて大好き。

なんなら「なんでも正しいことを調べられる分思考が固く硬直しがち」な新すばせかのリンドウのオルタと言ってもいい。同社だし意識してるでしょたぶん(テキトー)。

本当にストーリーはスジ、キャラクター、要所要所の盛り上がり全てにおいて素直に楽しめて牽引力のあるいい作品だった。ヨコオタロウ引っ張ってきただけあるよ。

ただ、ストーリー面でも「TRPGのフレーバー」がやや喧嘩しており、魅力的なキャラクターである主人公「8月の蜃気楼くん」が「君」「君」と連呼されるのに違和感を覚えた。

「8月の蜃気楼くん」はとにかくクソ野郎だ。人の財布は盗むし、弱きに調子に乗り強きにビビるし、自分と相棒の魔物以外のことは基本的に「どっか知らないところで不幸になっててくれ」としか思っていない。

彼の一種割り切ったゲスっぷりがシナリオを進むにつれて「本当にそれしか持ち物がなかったのだ」と判明する辺りは面白いのだが、それはあくまで「8月の蜃気楼くんがいいキャラ」というだけである。「君は財布を盗んだ」「君は白の教団にボコボコにされ捨てゼリフを吐いた」と事あるごとに「お前ひっでー奴だなー」とナレーションされるのは正直に言って割と不愉快だった。確定ロールは悪だと親に教わらなかったのかよ!

「TRPG的なフレーバー」と「PCとPLの乖離」が何か重大な伏線として機能するのかと思ったらそんなこともなく、「世界を救った彼はそのまま幸せに暮らしましたとさ」でストーリーが終わってしまう。

結局最後まで「私が操作するTRPGの自機」という感覚は持てず、「魅力的ないちキャラクター」の位置に置くにはあまりにゲーム側のフレーバーが私にコミットしすぎていて、両面において惜しい出来になっていると思った。

RPGのバランスとしてはかなり大雑把というか、中盤で手に入るジェム加速スキルないしそれを使えるクロエがほぼ必須で構築に多様性がない。

基本的な戦闘システムは誇り高きアルテリオス計算式+お互いのステータスがフルオープンの仕様で、「どの技を使えばどれくらいダメージを出せるか」を一発計算できるようになっている。

実際は乱数でかなり上ブレが発生するので概算にしかならないが、「乱数で下ブレは発生しない(要は見えているステータスは最低保証)」ので計算して損することはまずない。

技を使うためのMPは「キャラクターにターンが回ってくるごとに、PC共通のプールに1ずつ配られる」ので、どこにリソースを割くか計算して頭を使ってね、というゲームなのだが、アルテリオス式の都合上「連続攻撃」が本当に損なので「ターンを圧縮しヘボい攻撃3発を濃密な攻撃2発にする」ジェム加速が本当に強い強い。これを1人しか使えないのダメなんじゃないか。禁呪よりよっぽど禁呪だよ。

とはいえ何度でも言うが私は「1人用ゲームにバランスブレイカーはいくらあってもいい」派で、その観点に立てば基本的に戦闘は面白い。

先の「乱数が上ブレにしか寄与しない」システムもかなり爽快感がある。めちゃくちゃ多発するクリティカルと合わさって遊んでて結構スカッとするのは好印象。

だが、せっかくTRPGのフレーバーを持っているのにそのへんの乱数周りが全部デジタル的にブラインドで処理されているのは本当にもったいない。状態異常はダイス回すのにな。

異常者のジェム加速をもってしても裏ボスにはかなりいい具合に苦戦できたし、まあ10hのゲームにそこまで綿密で繊細なバランスを求めてないかな……とも思うのだが、えっ10hのゲーム!? 4000円だぞ!?

突き詰めると「高い」んだよなこれ。「演出を最小限まで切る」土俵に乗っちゃうと今どき3桁円どころか探せばフリーでこれくらい骨太で楽しいRPGはあるのに、4000円で、このボリュームで、この演出かあ……。

1500円くらいなら納得したんだけど、4000円ならやっぱり「肩の力を抜いたなりの気の利いた演出」を求めちゃうよな。乱数全部でダイス転がすとか。

あとフィールド画面の操作感が悪い、エンカウント率が昭和のRPGかあ!? ってくらい高い、全体的に挙動がもっさりしている(たぶん場のカード全部オブジェクトで管理してるなこれ)の三重苦がちょっときつい。バグサイトとクロスハンターで育った私は我慢できる範疇だけど、いらちだとたぶん無理だと思う。

これならスパロボ30とか素直にやってた方がよかったかな……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?