V字ジャンプ誕生秘話

 4月1日となり、桜も満開の春が巡ってまいりましたが、この冬日本のスキージャンプ陣は高梨紗羅選手のW杯総合優勝やレジェンド葛西紀明選手の最高年齢表彰台の更新など充実した成績を収めました。再三のルール改正などの逆風で一時不振を極めた日本のスキージャンプチームですが見事な復活を遂げつつあると言えましょう。

 ところで、今を去ること44年前の1972年に冬季札幌オリンピックが開催されまして、幼かった私もTVにかじりついて初めて見る冬季競技に夢中になったものです。その時には70m級ジャンプで日本選手による金・銀・銅メダル独占という快挙が成し遂げられたのですが、思い出してみると当時のジャンプのスタイルというのは今のような「V字ジャンプ」ではなく、スキー板を平行に揃え、両手も体側にぴたっとつけた形でのジャンプでした。いつの頃からか今のような「V字ジャンプ」に変わったのですが、この「V字ジャンプ」の誕生にはひとつの秘話が隠されていたのです。

 ジャンプに限らず、オリンピックに出場するようなアスリートの多くは、スポーツ用具メーカーと契約し、一種の広告塔となることにより選手生活の糧を得ています。スキー選手が競技を終えた後すぐにスキー板を外し、体の横に立てて待機するのも、テレビカメラがその姿をアップでとらえた時に顔の横にスキー板のメーカー名がはっきりと映るようにとの配慮だそうです。かようにメーカーに気をつかわなくてはならない選手達なのですが、あるジャンプの選手が成績不審からスポンサー契約を打ち切られそうになったことがありました。メーカーとすれば選手は単なる広告塔、成績が悪くてテレビなどメディアに映らなくては宣伝になりませんから、非情なものです。そこでその選手は考えたのです。飛行中にメーカー名を観客やテレビカメラに見せつけるようなスタイルで飛んだらどうなのかと。スキー板をぐいっと両側に開き板の裏面を外側に向けます。そのことにより板のメーカー名はもちろん、ウェアの胸のメーカー名もよく見えるようになるはずです。変わったスタイルのジャンプですから注目を浴び、写真が新聞や雑誌にたくさん載るでしょう。飛距離は落ちるかもしれないですがスポンサー契約を継続させるためには思い切った手を打たなくてはなりません。その選手にしてみれば起死回生の賭けでした。
 ところが……なんと、そのようなスタイルで飛んでみたところ、飛距離も飛躍的にアップし、各大会で優勝を重ねるようになったのです。棚からぼたもち、ひょうたんから駒とはこのようなことを言うのでしょう。以降この「V字ジャンプ」スタイルは世界のジャンプ選手の主流となっていったのでありました。

(何年か前の4月1日に書いた拙文をアップしました)

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