哀切のライブビデオ
段ボール箱の中のビデオテープはそのほとんどがラベルの貼っていない、再生しなければ中に何が録画してあるのかがわからないブラックボックスのようなテープだったのであるが、
(あ、ここからホラー話が続けられるな、と一瞬思ったが、とりあえず今回はそういう話ではない。まあK本人にしてみればある意味「恐怖」かもしれないが……。しかしいつか物置の奥から古いビデオテープが出てくるところから始まるホラー話を書いてみたいものである)
その中に手書きの文字でこんな書き込みのあるテープがあった。
「ヘブンズ Live at Adm vol.3」
それは、20数年前、Kが参加していたバンドの池袋のライブハウスでの演奏を撮ったテープだった。
と、ここで、以前書いた「緊迫のセッション」の後日譚を書いておかねばならない。
(「緊迫のセッション」 https://note.mu/kamenove/n/n2195180e0f83 )
かのヘビメタくんは結局バンドに参加することになった。オーディションセッションでのガチガチにこわばった棒立ち演奏に多少不安はあったが、まあそれは初顔合わせの緊張感から来るものだったであろう、何よりも外見こそハードに突っ張っていたが、セッションにあたって真面目に曲を覚えて来てくれていたというのが好感を持てたし、本人もバンドに参加したいという熱意があり、とにかくギターがいなければ曲作りも練習もLIVEもできないわけで、晴れてヘビメタくんはヘブンズ(仮名)の新ギタリストとして迎え入れられることとなったのであった。
いよいよ地味系軟弱バンドだったヘブンズ(仮名)に華のあるハードなギタリストが加入したことでバンドも新しい境地に漕ぎ出せるか……とKをはじめ旧メンバーも期待に胸を膨らませたのであったが、まあそう簡単にはいかないのがバンド活動というものである。逆にヘブンズ(仮名)は大きな停滞期に突入してしまったのだった。というのは、新加入のヘビメタくんがどうしても「オリジナル曲」を演奏することができなかったのである。
完全オリジナル曲バンドだったヘブンズ(仮名)の曲作りは、リーダーのマツがギターのコードとメロディーだけで上げてきたデモをドラム・ギター・ベースそれぞれが自分のパートを考えてスタジオでセッションしながら合わせて作り上げていくという形だったのだが、残念ながらヘビメタくんは自分でリフやフレーズを考えることが出来なかったのだ。そして致命的だったのが、ギターの最大の見せ場である間奏のソロが……ダサかった。悲しい言い方をしてしまえば、センスが無かったのである。ヘビメタくんとは半年ほど一緒にやってみたが、やはり新曲もままならずライブも出来ないということは困った事態で、バンド活動も行き詰まり、再びヘブンズ(仮名)はギター探しを行わなければならなくなったのだった。
そして、ヘビメタくんと同じく地元のバンド野郎だったアキちゃんが加入することになったわけだが、このアキちゃんは今度こそ「いい」ギタリストだった。マツの簡単なデモ曲をきれいなフレーズとリフでふくらませ、旧曲にも新アレンジで新たな息吹を吹き込み、ソロはメロディアスで、カッティングにもキレがあった。彼が加入してからは練習で「いいじゃん、それ」という言葉が行き交うことが格段に増えたものだった。
かくしてリーダー&ボーカルのマツ、ドラムのりゅーちゃん、ギターのアキちゃん、そしてベースのKというメンバーになったヘブンズは新曲を携えて念願のライブに打って出ることになり、そしてようやく冒頭のビデオテープに話は戻る。
そこに録画されていたのはこのメンバーの時期のライブだったのであるが、あらためて視て(聴いて)みてKがしみじみ思ったのは、
《もっとベースががんばってればいいバンドだったのに》
だった。そして
《せっかくベースやらせてもらっているのだから、もっともっと色々と弾けばよかった》
《もっともっと弾きようがあったんじゃないか?》
という忸怩たる思いも今さらながら痛感したのだった。
切ないものである。
何はともあれ1曲貼っておく。ライブ曲の中でとりあえず一番ベースががんばっていると思われる曲だ。それが冒頭の動画である。
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