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カローラセダン HYBRID WxB

諦めの代表格

誤解を恐れずに言えば、クルマを持つこと、クルマでモテることがステイタスだと信じて疑わない世代にとって、カローラはいちばん「ナイ」モデルである。

将棋で言えば“歩”だし、ドラクエのアイテムならば“ぬののふく”相当だろう。

退屈、消去法、事なかれ主義、無思想、あきらめ…だいたいそんなイメージがニッポンを代表するトヨタの大看板には染み付いている。

ためしに、ある程度年齢を経た人にカローラを購入したと言ってみてほしい。

おそらく「カローラかァ」などと宙を仰ぎ“かァ”の部分に軽い侮蔑を含んで返してくるはずだ。

一方で同乗してくれた女性セールス氏によると、クルマにこだわりのない若い世代は、カローラに対して構えたところがなく(フィールダーの功績が大きい)、スンナリと購入候補にリストアップしてくれるらしい。

で、あるならば今回のカローラはその空気を追い風にし、復活すらしそうな雰囲気を感じる。

結論から言ってしまえば、途轍もなく出来がいいのだ。驚くほどに。

とりあえずカローラという名前はあっちに置いて

ぐるりと外観を見る。ずいぶんと骨太な印象になったものだと思う。

マイナーチェンジを繰り返しすぎて初期のデザインが思い出せなくなった先代の黒歴史ともやっとお別れ。均整の取れたプロポーションを取り戻した。

カローラ・スポーツでお馴染みになったトヨタのスルドいファミリーフェイスも板についている。

不動産屋の物件送迎や、常備薬の営業でしか使われなかった旧モデルを併売する理由も頷ける。この顔つきで客先に出向いて「腹痛のクスリでございます」とは言えないもの。

一方でルーフを極限まで伸ばしたことにより、トランクの開口部が狭く、容量はあるのに荷物の出し入れが若干しづらい点はマイナスだろう。

まあ、ゴルフバッグやフルサイズのトランクを頻繁に運ばなければ問題はなさそうだが。

運転席に座る。試乗車はスポーティグレードのW×B(ダブルバイビーと言うらしい。いまだに意味がわからない)。シートの縫製や硬さがラテンのスポーツモデルのようだ。少しスルスル滑る素材。サポート性は悪くない。

中央のナビゲーション画面がやたら大きい。否が応でも目に入る。死角にならないようにシートポジションを合わせる必要がありそうだ。

ダッシュボードは一連のマツダ車に刺激を受けたのか、ステッチの表現も含めてクオリティがとても高い。負けていないと思う。

普及版グレードも貧乏ったらしく木目を無理に使っていないのも好感が持てる。

リアの居住性は外観から想像する通り、穴蔵感がある。ただし収まってしまえば特に窮屈さは感じない。身長が高い人はメルセデスのCLAほどではないにしろ、サイドウインドウの絞り込みが気になるかもしれない。

USBの差込口が2つ用意されているのはうれしい。シートはちょっと平板。スルスルした素材と相まって、激しいコーナーでは体を支えるのが大変そうだ。

ああ、こういうところでコストダウンするのね、と思ったのがアームレスト。

バネ感がなくパターン!と倒れるだけ。シンプルで結構、とも言えるか。

トヨタの力の抜きポイントの真骨頂を見た気がする。

言い訳無用の乗り味

スタートボタンを押す。ハイブリッドモデルゆえ無音でスルスル動き出した。右足に力を入れるとエンジン作動の気配が伝わりだす。当然だが、もはや違和感がない。

遠くで聞こえるエンジン音は快音とは言えないけれど、興ざめすることはなくなった。

最近では当たり前になりつつあるエコ・ノーマル・スポーツ3種類のモード別での走行パターンにもメリハリがある。スポーツモードはわかりやすいほどスポーティだし、エコモードは笑えるほど穏便だ。

そのたびにチラチラと変わるスピードメーター周りのデザインは、情報量も含めて過剰すぎる。ちょっと子供っぽいのが興ざめである。こういうところにありがたみを見いだすのはそろそろやめた方がいいのではないか。

それにしてもプリウスを皮切りに採用されたTNGAプラットフォームの出来は素晴らしい。作り慣れてきたせいか、このクラスでも十分に「もののよさ」を感じられる。

段差を超えたときや路面の轍をやり過ごしたときの足さばきは、国産車と輸入車を分ける必要がないと思うほど。

17インチと大きめのタイヤを履いているにもかかわらずタタンっ!と一瞬で衝撃を和らげる。

心なしか、アシの味付けが最近のプジョーやルノーなどのフランス車的な傾向があるような気がした。明らかにドイツの方向を向いていないと思う。

先代までの曖昧で水っぽいステアリングフィールもなく、ボサッとしフカフカな足回りの味付けも影を潜め、世界標準で戦える。ま、カローラですからね…とシニカルにヒクヒク笑う必要がない。まったく諦めた部分がない点にトヨタの本気を感じた。

先入観は家に置いて

巷間、カローラもついに3ナンバーになっただの、高額になっただのという話題を目にするけれど、これも時代の流れだと思う。

3ナンバー化に関しては、ほぼ形骸化した日本の旧態依然の税制の事情だし(金額にはまったく影響しない)、道路の幅が狭いのはインフラ整備を怠ってきたツケが回ってきたとも言える。

ガラパゴス化している国内事情の中で、回転半径を含めた取り回しを先代モデル同様に抑えてきたトヨタの誠意には敬意を表するべきだろう。

価格も同様。20年前の自動車の価格と比べて高くなったと嘆く記事も多い。

そりゃあそうだ。求められているものが違うのだから。

ユーザーが求める自動運転デバイス(個人的にはなくてもいいと思う)や、極度に低燃費を意識するがゆえ、コストを要する軽量化技術を採用せざるを得ない事情など、高額になるのは当然だし、過去と比較すること自体ナンセンスだ。

これらをカローラ一台に責任を負わす論調にはまったく同意できない。

それらの点を忘れ、クルマそのものの仕上がりだけで見ると、今回のカローラは価格を含めて妥当と言わざるを得ない。先鋭化しすぎたデザインのプリウスの受け皿になるだろうし、C-HRを収める車庫がないユーザーにもツーリング(ワゴン)はうってつけの選択と断言できる。

乗り出し300万円前後で購入できるクルマとして、候補から外すのはもったいない。むしろクラウンやカムリを食うぐらいの高い商品性がある。むしろ賢い選択じゃないだろうか。

ディーゼル以外のエンジンに個性が見出せず、待てど暮らせど登場しないSKYACTIVE-Xを有するマツダ3など、うかうかしていられない(しかも比較すると安い)だろう。待ちきれずカローラを選んでしまうユーザーがいるかもしれない。

まず大切なのはカローラであるという先入観を捨てること。

それを意識して、最新の世界的標準車を純粋に味わう気持ちでディーラーに望んでほしいと思う。

いいクルマに乗ったなァという気持ちがまだ消えない気持ち、ぜひとも共有したい。