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スズキ ハスラーHYBRID Xターボ

感傷は一瞬だけ

初代の登場は2014年だという。
もう6年も経過していたことに素直な驚きしか感じない。

佐村河内氏がゴーストライターの存在を明かし、笑っていいともが終了、ベイマックスが上映されたのが2014年、と書くとえらい昔のような気がする。

けれどもハスラーの時間軸で言えば、さまざまなカスタマイズパーツが発売され、驚くほどのスピードであざやかなボディカラーを引っさげ街中に繁殖したのにもかかわらず、嫌味なくあらゆる年齢層に浸透した「たったの」6年間だったように思える。
それだけに、このタイミングでのモデルチェンジは早すぎるような気がしてならない。
2代目?なんで?もったいないなあ…早いよ!と、早世のミュージシャンを見送ったかのような気持ちで今回のモデルを受け入れたことを素直に告白しておきたい。

実車は昨年の東京モーターショーで(ちょっと否定的な気持ちで)確認済みだったけれど、自然光の下で見ると印象が違う。
ハスラーはハスラーなのだけれど、サイズがやけに大きくなったように見える。
全体的に四角く堅牢な構成になったこと、ホイールベースが長くなったことが原因かもしれない。
なんとなくランドローバーのディフェンダーを彷彿とさせるデザインだ。これはこれで悪くない。

インテリアは大きく印象を変えた。
BMWミニっぽさを思わせる遊び心ある世界観だ。ディーラーにあった先代のラジカセっぽいシルバーのセンターコンソールを見ると、明らかに上質になったことに初めて気づかされる。

ベンチシートを辞め、セパレート化したことでカップホルダーと物置きが追加されたことは朗報かもしれない。
シートを分けたことで、全幅は変わらないのになんとなく広くなった気がするのだから人間の感覚なんていい加減なものだ。

リアシートは引き続きスライド機構を有し、足の置き場に困ることはない。四角い空間と相まって窮屈さを感じることはないだろう。サンルーフがあったらもっと楽しいかもしれない。
それにしてもフロントにシートヒーターまで装備するとは恐れ入る。無敵じゃないか。

いっぽうでメーター周りの、いかにも新人が採用面接で苦し紛れに提案したような液晶のインフォメーションディスプレイはクルマのキャラクターに全然合っていないと思う。
運転中にまったく必要のない情報がしじゅうチラチラ、結構な鮮やかさで表示され続けているのはどうなんだろう。
この手の日本車特有のおせっかいな子供っぽさはいつになったら解消されるのか。誰がありがたがっているのかも疑問だ。
どうせ物珍しい最初の段階で飽きるのだから、USBで繋いでスマホのアプリで確認できるぐらいに留めておけばいいのに。
もっともハスラーに限った話ではないのだけれど。

スタートボタンを押しエンジンを始動させる。軽ならではのプルプルした振動が伝わるかと思いきやそんな素振りはまったく伝わってこない。静かだ。
牧歌的なプルプル加減がむしろ個性に振れていた先代とは隔世の感がある。
アイドリングストップの介入も自然。咳き込むようなエンジン始動音も聞こえない。
なんだこの完成度。ボディ剛性も十分。ホントに黄色いナンバーなのかこれは。

ターボ+モーターのパワーユニットには余裕すら感じる。がんばってエンジン回転数を上げる必要がないから静粛だし、なにより滑らかだ。山道の多い地域で暮らすユーザーや、長距離を日常的に走る使い方をするならばこれ一択だろう。
新開発のロングストロークを採用したNAエンジンにも俄然興味がわく。
ぜひ試してみたい。

いっぽうで惜しいのはステアリングフィール。贅沢を言っちゃいけないけれど、電動パワステ特有の雲を掴むようなリアリティのない感触が払拭されていない。まだまだ改善の余地がある気がするし、今後の改良できっと良くなるだろうと思う。

つとめて定期的に軽の試乗をしているのだけれど、乗るたび「これで十分じゃないのか?」と思う。その気持ちがまた強くなったのが今回のハスラーだ。
なんだか大型ミニバンやプレミアムクラスの輸入車に乗ることになんの意味があるんだろう?と思えるくらい完成度が高い。
ついに軽が200万円を超えた、なんていう声を聞いてから久しいけれど、そりゃあこんな大マジな作りだったら当然だと言いたい。

値引きでがんばった末、スカスカのトヨタ・パッソなんかを選ぶよりよっぽど楽しい自動車生活が待っている。この小さなクルマには、暮らしを大きく変える可能性がある。2代目になってもその精神が変わらないことがとにかくうれしい。

かつてミニやVWビートルがそうだったように、デザインアイコン化された今、クラスレスな魅力を発揮して、敢えて高級リゾートホテルに乗り付けてもカッコいいんじゃないかと思う。たいそう絵になるんじゃないだろうか。