小詩集、インコとハムスター
とても狭い裏庭に
手作りの小屋を作り
父がセキセイインコを飼いだした
つがいのインコはやがて
卵を産み巣籠もりをはじめた
しかし父は
最初の卵は空だから
取り除いてやらないといけない
とおしえられ
卵をとりだして
石に叩きつけ割り出した
なるほど空だった
いっこづつ割っていった
最後のいっこから
胎児がでてきた
石の上に投げ出されたそれは
心臓を動かしていた
父はふんとため息をついて去る
私はそれが蟻にたかられ
見えなくなるまでじっとしていた
それからあとのインコの
記憶がない
屋外で冬を越せずに死んだ
のだったろうか
断酒に何度も
失敗しながら
もがいていた
十年間を共に
短い生涯を
生きてくれた
ハムスター達
ハムスターの寿命は2年
生き急がず
死に急がず
眠ったままおだやかに
命を終えます
ただいちど糖尿病のハムスターが
苦しんで泣きながら果てました
アルチュウで糖尿病の私といて
ハムスターは幸せだったのか
わかりません
ゴールデンハムスターの故郷はシリア
はてしなく紛争が続いている
帰る自然のないハムスター
母なる幻の国へ
ユーラシア大陸を縦断する
とんでもないハムスターの戯曲を書き
ハムスターを飼うのをやめました
故郷喪失者としてのハムスター
その旅の物語のかなしみに
アルチュウという喪失を沈め
私は断酒の端緒をつかみます
ありがとう
ちいさないきものたち
ゴールデンハムスターは故郷喪失者
自然界では絶滅し
飼育下でしか生きられない
私たちも同じだと思う
動物行動学のローレンツは
人間を自己家畜化動物とした
我らが内なる故郷が廃墟ならば
美しい廃墟であれ
指に出来たイボひとつで
不安にさいなまれる弱虫です実は
短い生涯をおおむね寝て
ハムスターは微笑を浮かべ死にます
なんでそんなに死はおだやかなの
人間に守られ天敵もないのに
なんでそんなに早く死んでゆくの
僕たちは長い老いにおびえ
死ぬのが悲しいけれど
ハムスターの2年も僕たちの数十年も
消え去ればおなじなんだね
やがて地球も消滅する
無数の悲惨を記憶にとどめるすべもなく
ならばすべての生き物に刹那の安らぎを
祈ります
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