見出し画像

あの時君は白かった

アーチェリー発祥の地は、ロビン・フッドの国イングランド。アーチェリーは「貴族のスポーツ」です。
ここで始まったアーチェリーは、テニスの全英選手権同様「上衣はアーチェリー競技のユニフォームとして適したものであり、下位は男子は白のスラックス、女子は白のスカート又は白のスラックスを着用する。」という競技規則に準じ、暗黙のうちに帽子から靴まで、すべて白でシューティングラインをまたぐことが、長い間義務付けられてきました。男子の短パン、女子のキュロットさえダメでした。それに色が付いたのが1988年、短パンが認められるようになったのは、1990年からです。

1969年 全日本選手

同じように、「照準器は使用することはできる。但し、いかなる時でも2個以上使用することはできない。」という、昔からあるダブルサイト禁止のルールがあります。こちらも、視野の中にサイトより上には印があってはならないという暗黙の解釈のもと、上リムのフェイス側には、一切の文字やデザイン、サイト目盛ホルダーの取り付けが長い間認められてきませんでした。それが「アッパーリムの内側に商標のある弓は使用することができる。」と、まったく不自然な文言が追加されたのは1990年代に入ってのことです。 その結果、今のリムはアッパーだけでなく、ロワーもフェイス側もターゲット側もすべてに、デザイや文字が入っています。それもなぜか、ほとんどが黒い色です。こんな真っ黒のリムになってしまったのは、2010年頃からです。

リムに文字が書かれているのは、
下リムの手前のみでした。

あの時君は若かった。だけでなく、あの時リムは白かった理由は、まだカーボンリムがなかったからではありません。ルールとも関係なく、グラスリムもあえて白く塗っていたのです。
グラスリムの表面に貼られているのは「グラスファイバー」で、「FRP」とも呼ばれます。FRPとはFiber Reinforced Plasticsの頭文字を取ったもので、「繊維で強化したプラスチック」の略です。これらは一般に白い色と思っている人が多いようですが、白とは限りません。ここでいう繊維は、Glass Fiberで「ガラス」で透き通っています。そして強化するプラスチックには「エポキシ樹脂」を使います。エポキシ樹脂は2液混合の接着剤と同じ色で、半透明のガラス繊維をエポキシ樹脂で固めると「あめ色」になるのが普通です。
FRPは何もしなければ、白ではなく「あめ色」の板です。しかし、それでは質感や高級感が出なかったり、繊維の通りが見えるため、ほとんどの場合、製造段階で樹脂に白い顔料を混ぜ合わせて「白い」FRPを作っていました。あるいは製品によっては、最後にあめ色の板の表面に白い塗装を施すこともありますが、ともかくは、あの時リムは白かったのです。

そんな昔、カーボンがなかったのでFRPと呼んだのですが、最近ではガラス繊維を固めていることを表すために「GFRP」と呼ぶこともあります。それに対して、カーボン繊維をエポキシ樹脂で固めたものが「CFRP」です。この時、カーボン繊維は真っ黒なので、繊維の色があめ色の樹脂を通り越して、顔料を混ぜなくても真っ「黒」く見えます。
1970年代後半まで、リムにはGFRPが使われていたので、白かったのです。そこにカーボンリムが登場するのですが、まだ黒くはなりません。最初、カーボンリムとは呼んでも、黒いCFRPは白いGFRPの下に貼られているだけで、外観は白いカーボンリムでした。

世界初の「カーボンリム」は、ホイットもヤマハも
黒い CFRP の上に、白い FRP が貼られたリムでした。

2000年代に入るまでは、オールカーボンリムと呼ばれる現在と同じCFRPだけで構成されたリムであっても白く塗装されていました。 設計者や研究者は、高速で飛ぶジェット機やロケットを黒く塗らないのと同じように、40度を超える炎天下で使用する製品に、普通は黒を使いません。温度が上がることでの剥離や折損のリスクを避けるためです。そのため、あえて黒いリムを白く塗っていました。作る側としての常識と良識であると同時にノウハウです。

ところが、今のリムは真っ黒です。これはカーボンが白くなったのでも、接着技術が向上したのでもありません。にもかかわらず、白いFRPのグラスリムにまで黒く塗り、黒いCFRPが表面に来ているリムにまで黒く塗っているのです。理由は「流行り」です。デザインと高級感を優先し、カーボンをアピールしながら競い合っているだけのことです。
ただし、そこにノウハウがあるとするなら、それはあめ色のグラスを白くしたのと同じように、黒く塗ることで表面だけでなくサイド面からも中身が見えないように隠しているのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?