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Frontiersが思っていたよりもずっとずっとダメだったというハナシ

3年ほど前、Frontiersから付着生物特集号やるからなんか原稿ヨコセというメールが来て、宙ぶらりんになってた原稿がちょうど1本あったのでためしに投稿してみた。査読はされたものの、特に厳しいコメントもなくあんまり手ごたえのないまま掲載された。Frontiers in Ecology and Evolutionか、Frontiers in Marine Scienceかで掲載誌は選べたようだが、なぜか Ecol Evolの方が安くて Mar Sciの方が高かったので Ecol Evolの方で出版した。このときは会社の研究予算で出せたので特に自分のフトコロが痛むようなことはなくまぁラッキー、という感じではあったのだが、やはりあまりにも手ごたえのない査読プロセスに「Frontiersでリジェクトされることがそもそもあるのだろうか?」という最低限の品質保証という査読プロセスに疑問を持ってしまった。そんなわけで金もかかるし、et al.の一部として参加した研究の中で共同研究者がどうしてもFrontiersで、っつーなら止めはしないがもう自分が筆頭・コレスポでFrontiersに出すのはやめよう、と このような印象を持っていた。

まぁでも一応掲載されてしまったこともあるし査読くらいは手伝ってやるか、とある日回ってきた原稿を見たところ、思っていたよりもずっとずっとFrontiersはヤバいということが分かって背筋が凍った。もう出版されて査読者の名前も公開されているので別にいいと思うのだけど、以下の論文だ。

Chan BKK, Watanabe HK, Chen C (2024) Commentary: Comparative omics analysis of a new deep-sea barnacle species (Cirripedia, Scalpellomorpha) and shallow-water barnacle species provides insights into deep-sea adaptation. Frontiers in Marine Science, 11:1374419. doi: 10.3389/fmars.2024.1374419
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2024.1374419/

これはFrontiersで以前出版された以下の論文に関するコメント論文だ。

Mao N, Shao W, Cai Y, Kong X, Ji N, Shen X (2024) Comparative omics analysis of a new deep-sea barnacle species (Cirripedia, Scalpellomorpha) and shallow-water barnacle species provides insights into deep-sea adaptation. Frontiers in Marine Science, 10:1269411. doi: 10.3389/fmars.2023.1269411
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2023.1269411/full

この元論文 Mao et al. 2024は、タイトルを直訳すると「深海に生息するミョウガガイの新種と浅海に生息するミョウガガイの比較オミックス解析による深海適応について」という内容で、新種とされるミョウガガイから深海に適応する分子基盤を明らかにしようという内容と解釈できる。しかしなんと驚いたことに、本文中に新種記載はなく、ここでとりあげられているミョウガガイは Vulcanolepas fijiensisという既知種であったというものだ。なんと論文のタイトルが間違っている。さらに驚いたことに、この研究で使われた深海ミョウガガイは Vulcanolepas fijiensisではなく別属別種の Neolepas marisindicaであったというおそまつさであった。分子情報があるのに、標本が手元にあるのにこんなに簡単な同定さえ間違っている。タイトルに新種記載と書いてあるのに新種記載ですらなく、対象種が別属別種であるという近年まれに見るレベルの酷い内容である。こんなもん査読以前の問題でEditorの段階でリジェクトしろよ、というレベルのハナシだ。このような論文が掲載されてしまうようなザルプロセスであることが分かってしまった以上、predatory journal論争でしばしばそのボーダーライン上に乗るFrontiersを擁護することはできない。自分の論文が掲載されてしまったこともあるので Frontiers が predatory journal かどうかではやや擁護側の認識でいたが、金さえ払えば掲載してくれるpredatory journalであると認識せざるを得ない。というわけで、自分の論文がFrontiersで掲載されたこともあるし 「et al.の一部として参加した研究の中で共同研究者がどうしても Frontiersで、っつーなら止めはしない」というスタンスでいたのだけど、今後は et al. の一部であったとしても Frontiers はやめておきましょうと主張するようにしようと思う。

もちろん、論文の価値が掲載されたメディアによって判断されるべきではなく、あくまでその研究がどのようなものかによって判断されるべきであるというのはその通りなのだが、Frontiersはその前提となる最低限の品質保証であるはずの査読(というかハンドリング)プロセスがザルであることが明らかになった。このようなことがあったので、今後どんなセンセーショナルな内容がFrontiersから発表されても、これまで以上に強い疑いの目をもって原著に当たらなければならないと考えている。


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