練塀小路の河内山宗俊

 おらぁなぁ!練塀小路の御数奇屋坊主の河内山宗俊だ!!
てめぇらみたいな町人から 盗人呼ばわりをされたんじゃぁ お城勤めができねぇんだ! 
ひらす(白州)へ出てな 白い黒いのけじめをつけてやる 
妻子があったら水杯をしろ! てめぇのこのうちの屋根 ぺんぺん草はやしてやるから さぁ 立ちやがれ!
 (河内山宗俊 丸利の強請より)


 神田伯山の、大向を唸らせる講談は好きです。ピカレスクロマン「畔倉重四郎」や「徳川天一坊」の連続読みは、講談の魅力を復活させた素晴らしい企画でした。
 これらの演目イコール講談の神髄として認知されているようです。講談ファンが一気に増えたのは、これらのダイナミックで聞き応えのある修羅場がメディアに取り上げられた事が大きかったのでしょう。

 どちらの話も大岡政談として人口に膾炙していた話。ストーリーがまず面白い。講談として完成したストーリーが、その後幕末から明治になり、歌舞伎や映画の題材となり更に人気を博した演題です。なんと言っても万人に分かりやすいというのは、いいことだと思います。

講談は演目数のとても多い芸能です。修羅場が中心の話だけではなく、「世話物」と呼ばれる講談も存在しています。しかし世話物はある意味地味目の話なので、まだまだ認知されていないのではないでしょうか。

 宝井琴梅の世話物を得意としています。人情物ですね。東京都墨田区生まれ、本所工業高校卒の琴梅は、その口調が江戸の話、明治の東京が舞台の世話物向けです。
琴梅の江戸前の口調は、とても心地よいのです。

 琴梅がこよなく愛して止まない話が、長谷川伸原作の「夜もすがら検校」、大向を唸らせる演出は無いのですが、「世の中はモノ、カネではなく“こころざし”には“こころざし”」という泣かせる話。

 江戸前の口調がぴたりとはまるのが、御数奇屋坊主河内山宗俊シリーズ天保六花撰 河内山宗俊 丸利の強請、河内山と森田屋清蔵など、琴梅の口調が河内山宗俊を初め、江戸の市井の人達を鮮やかに活写します。
 歌舞伎でもお馴染みの河内山宗俊ですが、講談で痛快な河内山宗俊を体験するのも一興です。

 「江戸の市井」と書きましたが、登場人物だけでなく江戸の気配を感じさせるのは、琴梅の口調だからでしょう。
ちなみにあの有名な熊谷喜八シェフは、宝井琴梅の実弟です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?