第一 三、葬祭の儀式作法

三、葬祭の儀式作法                   

 凶事の作法  凶事の作法とは、自ら喪に居る心得及び他の喪中に処する心得である。自ら喪に服して居る間は十分に謹慎して、死者に対して深く哀悼の意を表すべきことは申すまでもないことである。又他の喪中に処するとは、例えば朋友、知己、上長、下輩等の喪を尋ねる場合のことであるが、その死者に対して十分の哀悼の意を表すべきは勿論、その遺族に対しては深く同情の念を持たねばならない。

 即ちその哀愁の情を慰むることが肝腎である。殊にこの際は、先方の感情が興奮して居るのであるから、これに接するには極めて丁寧親切に且つ万事の挙動をしとやかにせねばならぬ。 

「大喪」  

 凶事のうち最も重大なものは申すまでもなく御大喪である。大喪とは天皇陛下の御喪を称し奉るので、この期間を諒闇と申し、国民一同謹慎、哀悼の誠意を表し奉らねばならぬ。大喪の期間は一ヶ年で、それを三期に区別してある。第一期は五十日、第二期も五十日、三期は残りの日数である。御大喪中は、歌舞音曲を停止し、弔旗を掲げ、喪章をつけねばならぬ。これはその都度告示があるから、違わぬよう遵守しなければならぬ。    

「凶喪の称」  

 申すも畏れ多きことながら、天皇皇后両陛下の御凶事には崩御と申し、親王、内親王、王、女王には薨去と言い、一般には死去と言う。また僧侶には入滅、入寂、遷化などと言う。   

 葬儀の大要  葬儀は人一生の最後の礼であるから、その家の格相応に、最も丁重に行わねばならぬ。斯様に儀式を大切に行うのは、哀悼の情を深くして、死者に対する礼ともなるのである。  

 先ず患者の危篤に瀕したことを医師から告げられ、そしていよいよ死亡した時は、出来るだけ沈着な態度を失わぬ様注意し、手続きとして戸籍吏へ死亡手続きを済ませ(この事は後章に書く)、それから喪を発表するがよい。即ち近親縁者のものへ訃を報じ、門前には忌中又は忌と記し、すべて死者生前の意思を尊重して、身分相応な礼を行って、諸事遺憾のないように注意せねばならぬ。    

「喪主及び関係者」  

 喪主の定め方は、親の死んだ時はその子。嫁、兄、弟の死んだ時はその弟妹。子が先立って母親のみの時は弟。嫁が死んでその子ばかりの時はその子。子もない時は最も近い親戚が喪主となるのである。すべてかかる際には、喪主及び家人は、その悲しみに堪えないで、諸事行き届かぬものであるから、親戚或いは親しい関係者が代わって諸寺万端遺漏のないように取りはかるようにする。

 それには発表、通知を始め、弔客の姓名を記帳すること、接待のこと、金銭出納のこと、葬具調達のこと、埋棺の事等、それぞれ分担して処置せねばならぬ。    

「喪帳のこと」  

 すべて喪中に用いる帳は所謂逆綴じにするのが普通である。即ち紙を縦に二つ折りにして、その口を下に向けて綴じ、帳の綴糸も結び切るのが法である。尚葬儀場で記帳する場合には奥より書き始めて、始めにかえると言うのが、古来の例となっっている。   

葬儀(仏葬式、神葬式、キリスト教の葬儀)  

 葬儀は神葬、仏葬、及びキリスト教による葬儀などがあり、又それ等の中にも、宗旨によって種々の相違があって、多種多様であるが、要するに死者の遺骸を埋葬或るいは火葬に附す儀式であるから、近親、親友はもとより、一般会葬者に至まで、静粛に、哀悼の意溢れるように心掛けねばならぬ。 

「仏葬式」  

 仏式では普通死者を北枕として寝かせ、枕元には逆さに屏風を立て、机を据え、香を焚き燈火をかかげ、家人及び近親の者は枕元に座し、終夜僧侶の読経を乞うが法となっている。     

  ▼湯灌と納棺の式  納棺するには先ず湯灌をせねばならぬ。湯灌をするには永眠した部屋の畳を揚げ、床板の上に盥(タライ)を置き、先ず水を入れ、次に湯を入れ温度を加減し、死骸を裸体として全身を洗い、頭髪を剃り或いは梳り(くしけずり)、晒木綿で作った経帷子(又は、京帷子 きょうかたびら)、頭巾、手甲、脚絆等を死骸に着せ、首には袋を掛け、手に数珠を持たせる。次いで棺に納めるのであるが、それには死骸の動揺せぬように茶又は樒(しきみ 植物 中華料理に使われる八角の仲間だが毒性がある)などの葉を詰め込み、ただ顔面のみを現し、之に白布を覆いて蓋をする。こうして置かれたる棺の前には卓を据え、その上に花を置き、香を焚き、蝋燭に火を点し、僧侶の焼香及び読経があって、納棺の式を終えるのである。     

  ▼葬列の標準  同じ仏式の葬儀にも、その宗派及び土地の習慣に依って異なるので、葬列の順番等も多少の違いは免れぬが、左に大体の標準を示す。 

先供  高張提灯    先供  高張提灯

先供  蛇頭      先供  蛇頭

  先供          先供

       放鳥籠

  花           花

       衆僧導師

 造花          造花

       香炉  


  幡           幡              

       位牌

       棺

 呉床          呉床 

       天蓋

 幡           幡

高張提灯        高張提灯

       喪主

      会葬者                

  ▼焼香の仕方  

  静かに霊前に進み、一拝して卓上の香を摘み、香炉に入れること二回。最敬の拝をなし、三歩退いて向きを変える時、導師の方へ一礼して退がる。この時は柏手は打たず、数珠を持つ人は数珠を揉むのが一般に仏式の礼である。もしまた座礼であるなら、三歩の所を二膝摺り出せば宜しいのである。

 「神葬式」  

 先ず死者に対しては、側近者は冷水で死骸を洗って清浄にし、もし女子なれば髪を結ぶ。身には白その他何でも穢れていない衣服を着せて、静かに安臥せしめ、白布を其の頭に覆いておく。又周囲には屏風を立て廻し。枕元に卓を置いて、茶、菓子、飯、燈火、榊の枝、香炉、香合などを供し、近親のものが必ず一人付き添っていなければならぬ。こうして祭主を頼み、装具の調達にとりかかるのである。     

 ▼入棺の式  死体を棺に入れるには、神官の祭文がある。次いで白い衾褥に死体を移し、近親の者四人でその四隅を持って、静かに棺の中に納める。次に衾(ふすま)をもって其の上を覆い、乾いた茶又は樒の葉を、白布の袋に入れたものをもって、棺と屍との隙間に詰めて動揺せぬようにする。 

 ▼式  入棺が終わったら、先ず棺を祭室に送り、棺前に祭壇を設け、祭壇の下には新菰(新品のわらで織ったむしろ)を敷き、神饌(お供え物)、塩、水その他山海の天然物を白木の三宝にのせて供え、神官祓い清めを行い祭文を読む。この時祭主その他は起立して静粛に謹聴するのである。神官の祭文が終わると、会葬者が出て祭文、誅詞を読み、終われば神官の指示に依って、喪主、近親、その他会葬者の順に玉串を捧げるのである。     

 ▼葬列の順序と墓所の式  葬列は先ず真榊、次に紅白旗、斎串、銘旗、根超榊、花、柩、喪主、近親会葬者の順序である。墓所に到着すれば、一先ず柩を祭壇に安置し、一同列座の上、先ず祭主供物を捧げ、祭文を読み、礼拝を行う。次に親戚、会葬者と順次玉串を捧げて礼拝し、式終わって後、呉床、神饌ん、唐櫃、墓標、柩を埋葬所に移し、再び祭文朗読、拝礼があり、これより埋葬して墓標を立て、葬儀全て終わるのである。     

 ▼玉串の捧げ方  玉串を捧げるには先ず右の手に取り、左の手を添えて持ち出で、霊前より三尺ばかりの所で一拝して、霊前の玉串台の辺まで進み、梢を手元に、本の方を無向へ向けて台の上におき、柏手を二回打って、更に丁寧に拝礼して、三歩退いてから向き直り、帰るのである。この時神官が立ち会っていれば、退く時その方に向かって一礼する。     

「キリスト教の葬儀」  

 キリスト教徒言っても、旧教と新教とがあって、その旧教のうちにも、ギリシャ聖教とローマ聖教との別がある。新教のうちでも英国監督教会派、メソジスト派、組合派、その他ユニテリアンなどの別はあるが、大体に就いて言うと、次のようである。  

 棺は大抵臥棺を用い、手を十字に組ませ、死骸の周囲は花と青葉とをもって埋め、柩の上に黒又は黄金色の布をかける。かように華麗なものを用いるのは、死者の光栄とその復活とを祈る意味からであると言う。そして葬儀は、教会堂に於いて行い、司会者たる牧師は、信者と共に最後の祈りを捧げた上、死者の前途の光栄を賛美する。この時親族友人等は、棺に対して最後の告別をする。次に死者の履歴祭文を朗読し、追悼の演説をなし、再び賛美歌を唱えて式を終わるのである。     


 埋葬の手続きと心得  

 埋葬の手続きは、府県によって多少の相違があるが、試みに東京に於ける手続きの一班を示す。先ず戸主により死亡者の姓名、箇所及び時日等を記し、医師の死亡診断書を添えて区役所の戸籍吏に届け出る。

 すると戸籍吏からは、死亡の通知を所管警察署に発するから、届人はこの通知書を警察に持行き、警察では場合によっては、直ちに医員を派出して検死することもある。検死が終われば随意に死体を棺に納める。その一方には埋葬地(火葬であれば火葬場)を記入し、埋葬認許証下付願を区長に差し出す。すると区長からは直ちに死亡時刻、埋葬地、火葬場等を記入した認許状を下付する。これ等の手続きは普通の事務取扱い時間外でも受け付けてくれる。死体は死亡後二十四時間以後でなくては、火葬或いは埋葬することは出来ない。        

 「火葬に就いての注意」  

 火葬は、埋葬認許証がなければ決して受け付けてくれない。また認印がなくて、封印の出来ない時にも、之を拒むことがある。故に火葬の当日は、必ず認許証と認印とを携帯すること。翌日は、火葬場から預かった鍵を忘れてはならぬ。  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?