第一  五、贈答の礼と作法

五、贈答の礼と作法  

 一概に贈物と言っても、婚礼、年賀、誕生、栄進等の祝賀を始め、火災、水難等の不幸時の見舞、弔問答礼、送別、安着等色々の場合があって、それぞれ時に応じてその種類を異にするが、要するに自分の誠意好情のあらわれでなければならない。従ってその価格も自分の分限に応じ、その時その場の軽重に依って定めねばならぬ。いたずらに身分不相応な物を贈って、かえって先方の不快をかったり、疑惑を起こさせたりすることは、よく聞くことである。   

 進物の調へ方    

 「祝賀の贈答」  

 総じて贈物は、自己並びに先方の身分、土地習慣等を斟酌せねばならぬが、通常婚礼祝儀には、末広、島台、積綿、巻絹、鰹節、衣服、帯その他身の廻りの調度品、或いは呉服切手等である。出産には産衣もしくは産衣にすべき反物、頭巾、涎掛け等嬰児の身につく物が多く、賀寿には幅物、置物などが格好と思われる。また新宅開き等には、花瓶、置物、掛け軸、額、置棚、その他茶器、菓子器などの世帯道具がよろしい    

 「弔問見舞の贈物」  

 弔問の時の贈物は、お茶、蝋燭、香、菓子、花等が通例であるが、近頃は金圓を贈る人も多い。病気見舞には病人が平素好むもの、病人に差し支えのない滋養品、水菓子等、又は病苦を慰める美しき花、適当な絵、雑誌等。火災、水難、地震、盗難など不時の災難を見舞うには、その被害の程度に依って、日常の必要品、例えば衣類、食器、飲食物などを贈るのが適当であろう。    

 「季節の贈物」  

 年玉には海苔、砂糖、手拭い、紙などを多く用い、雛祭りには内裏雛、雛道具、栄螺等、端午の祝いには幟、鯉幟、兜人形等を多く贈る。中元には素麺、白玉粉、葛粉、砂糖、乾物類、歳暮には砂糖、鮭、昆布、酒、羽子板、下駄の類を贈るのが通例である。 

 「餞別」  

 餞別を贈るには、旅行の目的模様等によっていろいろ心遣りをしなければならない。全て余り荷にならぬもので、旅行中に役立つものか、汽車汽船の中で無聊を慰めることの出来るもの、或いは行く先の土地で、容易に手に入れることの出来ない、その土地独特の産物とかの類がよい。また相手に依っては金圓の方がよい場合もある。   


 返礼  

 返礼と言うことは、日本にだけ行われる煩わしい習慣であるが、追々廃して行くとしても、現在のところ一概にそうも出来ない場合が多い。  

 さて婚礼、誕生、賀寿等祝賀の場合の返礼には、強飯(糯米を蒸したもの)鳥の子餅、おめで糖(紅白の砂糖)等を配り、その他袱紗、鰹節等を贈る。近頃は赤飯、鳥の子餅(鶴の卵の形にした紅白の餅)の形をした真綿を用いる人が多い。また賀寿には老人の揮毫した扇面、杯などを贈ることもある。  凶事の返礼には饅頭、菓子、茶、白布の類を多く用い、病気見舞には、全快した時祝宴を開き、また餅、赤飯等を配る。  一般に進物、返礼の品には偶数を忌むが、ただ鰹節だけは一番(ひとつがい)、二番と言って、二本、四本、六本と偶数を用いることがある。   

 贈り物の表書  

 贈物には本来、別に目録を添えるのが本式であったが、近頃は婚礼等の場合のほか、包み紙に直ぐ表書きをして、別に目録を添えない。しかし特に儀式張った時とか、高貴への向きの場合は、矢張り正式に従って目録を添えるがよい。    「表書きの書き方」  表書きの書き方も次に示すように、その場合に依って色々である。もし板に書くような時には、木目を縦にして書くべきで、横板には書かぬよう心得おくべきである。

    慶事の場合(先方) ご祝儀、御祝、御慶、寿 など       

     同  (自家) 内祝、祝、寿 など      

   凶事の場合(先方) 御仏前、御香典(仏式)、御霊前、玉串料(神式)、御香料、御霊前(キリスト教式) など       

     同  (自家) 志、忌明 など      

   謝礼の場合     御礼、謝儀、寸志、薄謝、志 など      

   見舞の場合     暑中(寒中)御見舞い、近火御見舞い、病気御見舞い など      

   年始の場合     賀正、謹賀新年、恭賀新祷、御年賀、御年玉 など  

   年末の贈物     お歳暮 など      

   帰宅安着の場合   御土産 など      

   其の他普通の場合  粗品、松葉、軽品、進上、進呈、贈呈 など  

 「表書きの位置」  

 表書きは上の中央、先方の名を書く時は上の左。自分の名は下の左に自書するのが本体である。名刺を用いる場合は、取れぬよう糊付けにするがよい。金包みの場合は、包み紙の裏又は中にその金額を「一金何圓也」と示して置く。         

 包紙と包方    

 「包紙」  

 進物の包紙は奉書又は杉原紙(播磨の国{兵庫県}杉原谷で製造されていた高級和紙)を用いるのが本式とされていたが、今日は改良奉書(すべ柾{奉書の種類})、糊入、美濃紙、西の内(茨城県産の和紙)、半紙等も用いる。又その枚数は、婚礼には二枚、凶事は一枚、その他の場合もなるべく二枚を用いる。略式の場合は一枚でも差し支えなく、小さいものは二つ折にして用いてもよろしい。大抵は包紙の上下から、中の品物が見えるように包むのであるが、中の品物がこぼれ出るようなおそれのある時は全部包む。    

 「包み方」  

 すべて進物を包むには、紙の表を外に、裏を中にして、品物を紙の上へ置き、左を先に、右を後にして折る。紙で包むことの出来ないものは、紙二枚を下に敷くのを法としてある。但し凶事には一枚とする。  

  一、金子の包み方 金子は紙袋若しくは紙で包むのであるが、紙で包む場合は先ず下包をしてから、両端を折って長方形に包む。  

  二、真綿の包み方 真綿を包むには、紙を横にして上下を外の方に折返し、折目をつけて引き伸ばし、折目の中に嵌めるように縦に品物を包み、折目通りに折り返すのである。紙は奉書二枚重ねて包み、水引をかける。  

  三、巻物の包み方 緞子、繻子のような巻物類を包むには、檀紙を縦に二つに折り、其の折目を左にして品を包み、両端の相会した部分を左右に折返して水引をかける。もし奉書を用いる場合には、二枚重ねてクルクルと巻くのである。  

  四、鰹節、海苔などの箱入りのものは、そのままで差し支えない。水引は箱の中に入れるのが法とされている。   

 水引の用い方  

 果物、海苔、魚、鳥等を除くほかは、大抵水引を掛けるを法としている。    

 「色と結び方」  

 紅白 紅右、白左にして結ぶ。宮中、皇族等に於いてお用いになる。  

 赤白 赤右、白左にして結ぶ。普通の場合民間に於いて用いる。  

 金銀 金右、銀左にして結ぶ。結婚その他華やかなる場合に用いる。 

 赤金 赤右、金左にして結ぶ。金銀の場合と同じに用いる。  

 黒白 黒右、白左にして結ぶ。凶事に用いる。(其の他白、白黄、白銀等を用いる)      

 「種類と用い方」  

 真結び 婚礼、凶事に用いる。婚礼の場合は水引の先を切らず必ず巻く。凶事には水引の先は必ず切る。  

 蝶結び(別名花結び) 婚礼又は凶事のように、戻る帰るなどと言う事を忌む場合には用いないが、その他の場合は何れに用いても差し支えない。  

 鮑結び 凶事以外には何れに用いてもよろしい。  

 さかさ鮑 凶事のほか用いてはならない。    


 熨斗の用い方  

 進物には総じて熨斗を用いるが、用いない場合も多いので、次の事柄に就いては特に注意を要する。  

  一、凶事の場合及び鮮魚、干魚、鰹節、スルメ、卵、鳥、肉類等の動物性食品には熨斗を用いない。  

  二、熨斗は進上、呈上を表記した左方に貼付する。  

  三、熨斗は折紙を用いるのが法であるが、略して「のし」と記すこともある。 

  四、婚姻その他丁重な祝事には長熨斗を用いる。  

  五、魚類にあっては熨斗の代わりに、檜葉、笹葉、南天の葉等を用いるのが法である。

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