コメダ珈琲

つんでおいた本を外で読もうと思いたち近所のコメダ珈琲に入る。日曜の昼下がりのコメダ珈琲は想像を超えた盛況ぶりである。15分ほどレジ前のシートでぼっとした後に番号を呼ばれ店の最奥のパーティションに案内される。木製の仕切り板で目隠しされたその空間に入るとそこにはテーブルがふたつあって片方の空いているテーブルに座る。当然だ。何故ならもう片方には見知らぬ男女が顔寄せ合って談笑しているのだから僕が座るべきはそちらではなくもう片方のテーブルに決まっている。
テーブルに立てられているメニューをひらく。コーヒーとゆで卵とトーストのセットが11時までと書いてある。そこで僕は重大な事実に気づく。コメダ珈琲には午前中にしか来たことがなかった。確かにコメダ珈琲を利用するのは打ち合わせ場所に早めに着いてしまったカッコ悪さを誤魔化すためにモーニングを食べてから仕事を始める余裕ある大人を気取る時と決まっていた。だからコメダ珈琲という存在とモーニングセットはいつのまにか僕の中で不可分なものとしてインプットされ今日もコメダ珈琲に向かおうと決めた時点で既に僕の口は塩をふりかけたゆで卵になっていたのである。ところがどうだ。ドリンクメニューに続く軽食一覧のページにあるのはスイーツばかりなのだ。クリームの盛られた抹茶ゼリーや餡子の練り込まれた蒸しケーキ。これはこれで美味そうだ。しかし今はそうではない。塩気だ。やや茹ですぎてパサついたゆで卵をコーヒーで流し込むあの感じ。
僕は絶望に近い感情をなんとかおちつかせようと隣のテーブルの男女の方を盗み見る。テーブル上にはコーヒーゼリーが置かれている。なるほど。あれはあれで実に美味そうだ。コーヒーゼリーと言うだけにコーヒーっぽさには事欠かぬ筈だしつるっとした口あたりはゆで卵に似ていない事もないだろう。モーニングセットが無いと分かった時点でコーヒー単品の注文に逃げかけていた自分の気持ちをいま一度見つめ直し、もう僕はどうとでもなれという気持ちでテーブルにある店員さん呼び出しボタンを押す。
レジの近くの溜まりから店の最奥のパーティションにあるこのテーブルに店員さんはやってくる。水のサーバーを手に店内を回っていた店員さんが思わぬ近場からやってくる可能性だってあるだろう。いづれにせよ僕は店員さんが来るまでに注文を確定しなければいけない。

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