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【XR企業分析】VR Education Holdings

Synamon/CFO鎌田(@kama_tea)です。先日遅まきながら体験した教育体験VR『ENGAGE』がとても素晴らしかったので、企業分析してみました。

※データは全て公開データに基づいております。あくまで投資推奨するものではございません。

​いきなり圧倒される世界観

VRから起動すると宇宙空間に恐竜が歩き回りプロペラ飛行機が目の前に着陸、アポロ13号が着陸するなど目の前の展開にワクワクします。こちらは『ENGAGE』プロダクトサイト。

アバターは写真取り組み分析、アバター編集機能などリアル系。米国『Spatial』と同じ方針ですね。

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アイルランド発のVR企業

会社概要

会社の基本的な情報は下記の通りです。

会社名:VR Education Holdings Plc (https://engagevr.io/)
所在国: アイルランド共和国
創業年:2014年
上場日: 2018年3月12日
上場市場:ロンドンAIM市場/ダブリン・ユーロネクストグロース市場

アイルランド、『Wikipedia』によると実は一人当たりの国内総生産が世界で最も裕福な国のトップ10にランク!

ちなみに詳しいプロダクトについては是非「ENGAGE」を触ってみてください。

さて、折角の上場企業なので株価について見てみます。現在の株価はこんな感じです。

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ちょっと分かりづらいですが、この記事書いてる4月21日時点で、午後の相場少し動いており

・株価:13.0€≒1,690円
・時価総額:約32百万€≒41.6億円
です(1€≒130円)。意外と規模が小さい(あと上場時から動いていないという)驚き。ちなみに日本のto B/VR企業規模ではMogura VRでこんな記事がありました。NURVE評価額が100億円程度に比べると小ぶりな気もしますが、ロンドン市場が3兆ドルに対して東京市場が6~7兆ドルとすると市場の違いによるものかもしれません。とすると、企業価値評価は100億円前後と大体同じぐらいの企業評価、とも考え得るかも(ざっくりな計算ですが)。なお、ニューヨーク証取は24兆円(!)。Recroomがユニコーンになるのも納得ですね。ただXRの成長性に対して投資家が期待値かけてるかと言うと、このチャートを見る限りではまだ様子見段階な印象です。

株主見ると面白い点

この会社の株を保有してる株主構成について、さくっとグラフにしてみると面白い特徴があります。大株主にHTC VIVEで有名な台湾HTC社が入ってます。

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ところで何を展開している会社なの?

大きく分けて、(1)教育系VRサービス「ENGAGE」と、(2)それ以外の展示物体験等のVRコンテンツ(主に博物館向け等)があります。(1)ENGAGEもさらに分けると、(a)ENGAGE-VR Campus , (b)ENGAGE-VR Office , (c)ENGAGE-VR Eventsの3つがあるようです。おそらく(a)~(c)はユースケースのようなイメージでしょうか。

この「ENGAGE」の直近顧客はこんな感じ。

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アイルランド企業ですが、顧客はグローバル企業への訴求力が強いですね。小話ですが足元日本のお台場の企業にもサービス提供してます。そして台湾HTC社や中国HUAWEI社が入ってきてる背景は、先程の株主の話がここで出てくるわけです。

IR資料からわかる情報
ではIR(Invester Relations/投資家向け広報)に載ってる直近の資料、2020年12月期資料を見ていきましょう。

2020年度の主なトピック
細かい財務情報は後にして、主なトピックはこちら。

・"ENGAGE プラットフォーム"の加速化とコロナ禍後の"ENGAGE Events"のローンチ
・Android/iOS向けENGAGE Mobileによるアクセス可能なユーザーの増加
・1.8百万€(≒2.3億円)を超える価値相当のENGAGE サブスクリプションを60社の顧客と締結
・2020年4QにはENGAGEの地理的な拡大として中国本土のHTC顧客へと拡大

ざっくりまとめると、①色んなユースケースが好調だよ!②スマホからもアクセス出来てユーザー数増えてるよ!③サブスクリプションも順調だよ!④エリア拡大しちゃうよ!と。

③の具体的サービス定義については資料のみでは読み取れない部分もありますが、④はHTCが株主にいることからの攻勢戦略ですね。

2020年度の導入事例
どんな案件事例があったのかも見てみましょう。

【VR×オフィス】

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FacebookのオフィスHacker Squareを再現。Facebook社内のミートアップやイベントオフィス活用。
【VR×教育・研修】

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スタンフォード大学の医学生向けにリモートの教育・研修を実現。

【VR×イベント】

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HTCのイベントで100万人超の視聴者が集まるバーチャルイベントスペースを提供。


財務資料からわかる情報

では財務資料も軽く。

収益概要
2020年度の主な財務指標はこちら。

売上高: 1,417 K€ ≒184百万円、前年比+38%
売上総利益:1,013 K€ 131百万円、利益率72%/前年比+9%
営業損益:▲2,721 K€ ≒▲353百万円
当期純損益:2,728 K€ ≒▲354百万円
現預金:2,032 K€ ≒264百万円
文字だけだと分かりづらいので下記に簡易な売上推移をグラフにしてみました。

売上高は全体として伸びている中、(1)ENGAGEが売上伸びて、(2)Non-ENGAGEが売上減少しました。それでも足元は(2)Non-ENGAGEからの収益寄与が57%と依然として大きいですね。

続いて利益率見ると、粗利率は72%。7割以上を維持して収益性が高い。ちなみにGAFAMではFacebookが80%前半台の高さを堅持してます。

営業損益は実は現在も赤字です。

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もう少し詳しく見てみると…
ENGAGEの売上内訳のおおよその比率が出てたので数字にしてみましょう。実際の英語から少し意訳してる部分もありますが、3つの要素から構成されてます。

ライセンス:いわゆるARR収益

プロフェッショナルサービス:こちらの事業モデル詳細は少し読み取れず

イベント:ワンオフの単発イベントとの事

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ライセンスが366 K€≒47.6百万円。12ヶ月で割るとMRR3.9百万円とまだそこまでライセンスが大きくないのが分かります。

今後のVREH

彼らが目指すゴールは?
同社は2023~2025年に、

「500社のアクティブエンタープライズ系企業と10万月次アクティブユーザーをターゲットとして、10 M€≒13億円の売上高達成を目指す」、としています。「売上高10億円超」というひとつの挑戦ハードルを売上高ターゲットを置いています。

それを達成するためには、ハードウェアの普及がボトルネックとなるものの、彼らの定義するTAM/10 B€~25 B€(≒1.3 ~ 3.3兆円)の市場に関連する動きの実証を近々の事業戦略として重要視しているようです。

最後に

長めの話になりましたが、軽く財務の目で見ても色々学びのある企業とあらためて感じてます。

・海外展開するにあたり強力な推進株主と提携の上で進める
・複数のユースケースを組み合わせたプラットフォームとしてプロダクト展開する
・収益の主な構成要素をカスタマイズからライセンスへと移行していく  …etc
今回は長くなりそうなので取り上げませんでしたが、競合企業の取り方やInvestment Thesisのロジック構成、採用戦略等から分かる事もあり読みごたえがありました。

皆さんの参考になれば嬉しいです!

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