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映画監督の鎌仲がなぜ移住して民宿✖️農業をはじめたのか_そもそも編 その2

保養することの困難さについて


子どもたちを被ばくからどう守るのか

2011年3月11日に起きた東日本大震災、そして原発事故。
福島を中心に東日本から関東にかけて、国土が広く、ひどく放射能に汚染されました。当然、そこに住む人々に被ばくの問題が降りかかりました。
では、国は被ばくから国民を守ったのか?と言えば、残念ながら「NO」です。人々は無防備に情報を知らされないまま被ばくしました。

長年、映画を通じて「被ばく」が人間にもたらす影響を伝えてきた私にとって日本政府がとったひばくへの無策とも思えるような対応は驚愕を通り越して唖然とさせられるようなものでした。
特に、子どもたち。安定ヨウ素剤も配布されず、部分的にしか避難もさせられず、挙げ句の果てには校庭が汚染されているのに文科省は学校を再開させました。そして避難先から学校の再開を機に多くの子ども達が汚染地に戻ってしまいました。

私たち大人は子どもたちを被ばくから守ることができなかったのです。

そして、前にも書いた富成地区の子どもたちは汚染された地域に住み続け
線量の高い学校で学んでいました。
通学路はところどころ2マイクロシーベルトもあるような有様。
放課後、学校の前に子ども達を迎えに車が次々とやってきていました。
子ども達を待つ女性に話を聞いてみると、
「学校は事故後スクールバスを出してくれている。しかし自分の孫の父親は
政府が安全だというのだから、歩いたほうが健康にいいと孫達を歩かせて学校に行かせている。でも、私は心配だからこうやって車で迎えに来るんだあ〜」と言うのだ。
私は当時「小さき声のカノン」の取材中で、

チェルノブイリ当時、現地の大人達がどうやって子どもたちを被ばくから守ったのかを福島と並行して取材していました。そこで見えてきたのは被ばくしたら取り返しがつかないのではない、特に子どもは保養させることで元に戻る力があるのだという事実です。
「保養」とは放射能汚染のない地域で一定の時間を過ごし、汚染のない食事をすることで体内の被ばく量を劇的に減らす療法のことです。
チェルノブイリの被害を受けたベラルーシでもウクライナでもこの保養は
事故直後から実践され、事故から37年経った現在でも続けられています。

これは、原発事故後、被ばくを余儀なくさせられた子どもたちにとって
大きな希望になり得る、と感じました。

だから、富成地区の子どもたちにも保養をしてもらいたいと思ったのです。

保養を実行に移すために

2013年当時、すでに放射能汚染について語ることは困難を伴いました。
「風評被害」という言葉が席巻していたからです。
チェルノブイリにおいては子どもたちが保養を受けるべき汚染度合いの
地域であっても日本政府の基準では安全であり、保養という概念すら
一度たりとも日本政府は言及したことがなかったのです。
では、日本政府は「保養」について知らなかったのか?いいえ、
知っていました。ベラルーシ政府は自分たちの経験と保養のやり方を日本政府に提供したいと提案していたのです。それを断ってしまったのだと
ベラルーシで関係者から聞かされました。二百人に及ぶ様々な省庁の官僚たちがベラルーシを訪れ、国内最高の保養施設を見学したことも。
帰国したのち、誰一人として、日本でも保養をすべきだと言い出さなかったということだと理解しました。なんと残念なことでしょう。

ベラルーシでは当たり前の保養という行為が日本では政府が安全だと言っているのに保養するということ、それはすなわち
その地域が危険だと言っているとみなされることになりました。保養といえば「風評被害」だということになってしまうという隘路にハマっていました。公的な予算は一切保養に充てられることがなかったのです。ベラルーシでは国家予算が充てられているというのに。

渡邉和美さん(一回目ではWさん、としていますがご本人が良いというので本名でこれから表記します)の提案で、保養ではなく英語の移動教室で合宿するという体裁を作ろうという戦略を立てました。
そうでなければ、38人の子どもたちの親が納得できない。内心、保養させたいと思っていても大っぴらにそれはできないが、英語を学ぶためという大義名分があれば安心できるということです。
そして、和美さんが提案したのが、子どもたちの両親が必ず1回、1日でいいから合宿に参加するという条件でした。その旅費は主催する私たちが全て負担とすることにしました。(最初は抵抗もありましたが、最終的には全員の親御さんが納得し、合宿に参加してくれました。)

次に私たちが取り組まなくてはならなかったのは38人の子どもたちの一週間分の滞在費、交通費、食費、親御さん全員の交通費・宿泊費の捻出でした。そして、どこで実際に行うのか。また子どもたちに付き添うスタッフも探さなくてはなりません。課題が山積みでした。







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