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「どうする家康」名場面コラム【憧れの君】

母のことが大好きだった。
母が思いを寄せていた人は、自分にとっても「憧れの君」になった。

その人が本能寺の変のあと、命を狙われ逃げ続けていると聞いた。
「ご無事でありますように」
神に願い続けた。

祈りが通じたのか、無事であることを妹たちが知らせてくれた。
心の底から安堵し、妹たちも喜んでくれたが、照れもあり、「私はただ母上がお喜びになるだろうと思っただけ」と言って、自分の気持ちを隠そうとした。

だが、母や自分と妹たちが絶体絶命の危機に追い込まれた時、憧れの君は来てくれなかった。
母は不安そうに城の外を眺め続けていた。母も彼が来てくれるのを待っていたのだ。
「もう来ない」。絶望した母は娘たちだけでも生き延びさせようと逃がし、自害した。
その時から憧れの君と思い続けてきた相手は、憎しみの対象に変わった。

母との別れ際、自分が天下を獲ると誓ったが、女である自分には難しい。
自分が理想とする憧れの君になってほしいという思いも込めて、息子を育て上げた。

初めて息子が家来たちの前で自分の本心を話した時、報われたと思った。
幼き日、憧れの君とはどういう人か、妹たちに言い聞かせた言葉と同じだったのだ。
「信じる者を決して裏切らず、我が身を顧みずに人を助け世に尽くす」
そして息子は、母が今も抱え続けている無念をくむかのように付け加えた。
「自分は決して皆を見捨てぬ」

そう力強く発した言葉を聞いた時、茶々は自分がつくり上げた憧れの君とともに、もう一度、地獄に足を踏み入れる決意をした。

#どうする家康
#乱世の亡霊

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