#どうする家康【太閤、くたばる】
幼かった時から飢えていた。
母は悪かったと自分を責めた。
「腹いっぱい食いてえ。いつもそう言っていた。でも、何も与えてやれなかった」
現実を嘆いていても空腹は満たされない。百姓のままなら、たぶんずっと。そう思うようになったころ、織田信長と出会う。役に立ってくれるなら身分は問わないという。
懸命に仕えた。生まれた時から武士だった者たちは、馬鹿にしつつも、這い上がろうとする彼のとてつもない熱量を脅威と感じていた。
のちに彼に追い詰められた柴田勝家は、北ノ庄城で自害する前、こう言い残した。
「あいつが信長様の草履持ちだった頃、わしはよくあいつの尻を蹴った。怖かったからだろう。あの男の底知れぬ才覚が」
家臣の一人に上り詰め、信長が本能寺で襲われた時には、誰よりも早く、謀反を起こした明智光秀を討ち取った。
これがきっかけで、瞬く間に頂点に立ち、自分を見くだしていた者たちが、みな頭を下げるようになった。
だが、それで満足することはなかった。欲しいものにきりはなかった。
信長の妹・市に対しては、その美しさよりも織田家の血筋を欲しがった。結局叶わなかったが、のちに市の娘・茶々を側室にし、跡継ぎを生ませた。百姓出身という過去を消したくて、公家の最高位・関白も「買った」。
天下を平定しても満足せず、異国にも手を伸ばした。反対した正妻からは「この世の果てまで手に入れるおつもりか」と迫られた。
だが、すっかり老け込んだ晩年、ようやくすくすくと育ち始めた跡継ぎが羽根を打ち損じ、それを拾おうとした際、意識を失い庭に倒れ込んだ。そのさまは太閤秀吉ではなく、欲望の怪物が力尽きたようだった。
#どうする家康
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