見出し画像

#どうする家康【於愛日記】

鳥居元忠を慕う気持ちは誠のものか。そう尋ね、千代が返したきた言葉が自分と重なった。
「わかりませぬ。きっと偽りでございましょう。ずっとそうして生きてきたので」

かつて、子どもたちにも恵まれたささやかな幸せが、夫の戦死によって崩れてしまった。
家康に仕えることになってから、癒えない心の傷を悟られないよう、笑顔をつくるようにしてきた。
気づかぬうちに素の自分が顔に出ていないか心配で、家事をしているさなかでも、水鏡を見て口の両わきが上がっているかを確かめた。

そんな作り笑いが似合うと言われるようになった。
家康の正室だった瀬名は、自分を側室に選んだ時、こうほめてくれた。
「よい笑顔じゃ。きっとこの先、殿の助けになろう」
喜ぶべきことなのだろうが、胸中は複雑だった。

だが、瀬名と息子の信康が自害に追い込まれ取り乱す家康の姿を見た時、彼の悲しみの深さは自分の比ではないと思った。
「私よりはるかに傷ついておられるこのお方をお支えしなければならない。笑っていよう。たとえ偽りの笑顔でも、絶えずおおらかでいよう。このお方がいつかまた、あのお優しい笑顔を取り戻される日まで」

それからは家臣たちからも頼りにされるようになった。
表ざたにはできない家の中で起きる揉め事、夫婦だけにしかわからない悩みなどを解決に導いた。

元忠と千代に語りかけた言葉は、自身の体験に裏打ちされていた。
「人の生きる道とは、つらく苦しいいばらの道。そんな中で慕い慕われる者がいることがどれほど幸せなことか。それを得たのなら大事にすべき」

笑顔をつくる練習をすることもいつのまにか忘れるようになったというのに、於愛は胸を患い、ほどなくして鬼籍に入ってしまった。

#どうする家康
#於愛日記


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?